大統領選報道メディアに見る「分断」の歴史 戦後75年とバイデン、トランプの人生
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「それでもトランプ」しかない人たち
このきらびやかでまぶしすぎる就任式を享受していたのは、80年代中盤に登場してきた都市部に住む若いビジネスマンの富裕層、いわゆるヤッピー(Young Urban Professionals)たち。彼らのハイソでクール、そしてヒップな消費活動がメディアにこぞって取り上げられ、彼ら自身のプライドとおしゃれ心を満たすための欲望が経済を回していく一方で、その流れに乗り切れない人々との間で精神の階級分化は確実に進んでいった。
つまり、都市部で成功を収め散財する若者の裏で、スモールタウンで慎ましやかで精一杯の暮らしをする人々との間に大きな溝が生まれはじめた時代である。「ヒルビリー」や「ホワイトトラッシュ」「レッドネック」ということばが積極的にメディアで使われ出した時期とも重なる。
彼らは若き民主党のホープがセレブたちに囲まれながら、豪華絢爛なパーティーにも見える就任式を行なう様子をどのように見ていたのだろうか。
そしてその頃まさにトランプは、不動産王の名を欲しいままにし、不動産業に飽き足らず興行界にも進出していた。数年後にはミスユニバースやミスUSAの権利も手に入れ、そうした姿をメディアはこぞって取り上げ「時代の寵児」に仕立て上げていったのである。
そうしてクリントンの時代から30年弱がすぎ、まさしく「次の世代」のための政治を行なう大統領を選ぶ今回の選挙において、候補者として選ばれたのはクリントンと同じ世代のふたりだった。
トランプを支える支持者の多くはまさにアメリカに「忘れ去られた」貧困層の白人、つまり「ホワイトトラッシュ」だという。そしてトランプは自身がこれまでさんざん利用してきたメディアの嘘を語り、平易なことばでもって、アンフェアな現状を打破するために、俺についてこいと煽る。そしてそのことばをもっとも信じたのは、あの日の就任式で、もっとも「忘れ去ら」れていたであろう彼ら。それでも、トランプこそ俺たちの声に耳を傾けてくれる、と期待を寄せた。
トランプの人格やこれまでの言動は看過できずとも、「それでもトランプ」しかないという人々の声を多く耳にした。「人種」や「右左」でもない、もっと根深い「上と下」という分断。それも単なる貧富にとどまらない、精神的な階級化を内包した意味での「上下の分断」が今回の選挙で色濃く見てとれた。
この分断の選挙戦を制したバイデンは勝利演説で「今こそアメリカが団結し、憎しみ合うことをやめ、分断を癒すときだ」と語る。そして彼がこの選挙戦でキャンペーンソングに選んだのは、ケネディが政権を担った彼らにとってのまさに「古きよき時代」1962年、ジャッキー・ウィルソンによって歌われた楽曲”(Your Love Keeps Me Lifting) Higher and Higher”だ。自身のまさに波乱万丈な人生の中で、アメリカが戦後75年で経験してきた山も谷もすべて見届けてきたであろうバイデン。この楽曲が言うように、ここまで深くなった分断の中で、アメリカを「高みへ高みへ」引き上げることができるのは「愛」しかないのかもしれない。
You know your loveyour love keeps lifting me)
Keep on liftinglove keeps lifting me)
Higherlifting me)
Higher and higherhigher)
あなたの愛が僕をより高みへ高みへと押し上げ続けてくれる
高く、もっと高く
―ジャッキー・ウィルソン
<楽曲リスト>
1. High Hopes -Frank Sinatra
2. Don’t Stop -Fleetwood Mac
3.Your Love Keeps Me Lifting) Higher and Higher
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