愛ではなく、いい加減さが閉塞した世界を救う! 山本政志監督のトリップ映画『脳天パラダイス』
#映画 #パンドラ映画館
アッパーで、ヒーリング系な山本政志監督の世界
顔はコワモテの山本政志監督だが、ストレスの多い現代人に「癒し」を与える映画を生み出してきた。前作『水の声を聞く』(14 )は、アルバイト感覚で新興宗教団体の巫女を務める女の子(玄理)が教祖に祭り上げられ、悩める人々に向き合う物語だった。
目には見えない不思議な力、宇宙規模のエコロジーをテーマにしていることも、山本政志作品の特徴となっている。ミニシアターブームの火点け役となった『ロビンソンの庭』(87)では廃墟で暮らし始めた女性が日々の生活の中で生命力を回復し、やがて大自然と一体化していくことになる。映像の美しさもあって、何度も観たくなる神秘的な作品だった。
その一方、五輪メダリストのベン・ジョンソンまで出場する世界最大規模の町内運動会を描いた『アトランタ・ブギ』(96)などのアッパー系のコメディ映画も得意としている。今回の『脳天パラダイス』は、ヒーリング系の作風とアッパー系コメディの両方のいいとこどり映画だ。古田新太、村上淳ら実力派俳優が無駄に出演しているのも、山本監督らしい。
いい加減な、いやデタラメなパーティーがきっかけで、それまで家に引きこもり気味だった長男のゆうたは変わり者の客たちをもてなすことの面白さに気づく。ええじゃないか、ええじゃないか。勤務中のはずの運送業者は、あかねの女友達と仲良くなって、エッチを始める。ええじゃないか、ええじゃないか。現役の女であることにこだわる妻・昭子に対し、修治は「一夫多妻制」の逆「多夫一妻制」を提案する。ええじゃないか、ええじゃないか。あまりにパーティーがにぎやかなので、すでに亡くなっているおじいちゃんおばあちゃんも幽霊になって参加する。よいよいよいよい♪
ミュージカル、コメディ、エロス、ワイヤーアクション、不条理ミステリー、怪獣映画……。さまざまな要素を呑み込みながら、物語は転がっていく。ストーリーの整合性は、まったく無視。山本監督ならではの結果オーライ、てなもんやお祭りムービーだ。そんな大騒ぎも夜明けと共にお開きとなり、やがて浮かび上がってくるのは家族の新しい在り方だった。それぞれの価値観の違いやつまらない見栄から、バラバラになってしまった修治たち一家だったが、どんちゃん騒ぎと一緒に余計な雑念も流れ去り、お互いにまっさらな気持ちでこれからの新生活に向き合うことになる。
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