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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 伊藤沙莉主演R15映画『タイトル、拒絶』レビュー
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.609

自分を好きになれない貧困女子たちの下流ライフ 伊藤沙莉が主演のR15映画『タイトル、拒絶』

お金を稼ぐことが自己承認の手段

 

「クレイジーバニー」の待機部屋。売れっ子のマヒルは、トラブルが起きても笑って受け流す。

 伊藤沙莉が演じるカノウは、自分の容姿にずっとコンプレックスを抱いてきた女性だ。小学生の頃に学芸会で「カチカチ山」を上演することになり、クラスの女子みんながウサギ役を演じたがる中、カノウはタヌキ役に立候補した。競争率の低いタヌキ役は、すぐにカノウに決まった。以来、自分にはかわいいウサギ役は似合わないと思い込んでいる。「クレイジーバニー」で働くようになってからも、マヒルのようにきれいな女の子への憧れの気持ちを抱いている。

 見た目は美しいマヒルだが、心の中は部分的に欠落していた。デリヘルは本番NGだが、コワモテの店長(般若)とはこっそり本番行為を重ねている。多分、特別料金を支払う客とも同じことをしているのだろう。お金をせっせと稼ぎ、ケラケラと笑うマヒル。お金を稼ぐことが、唯一の自己承認手段となっている。

 マヒルのことを性的欲望の対象としてしか扱わないクズ男たちとばかり、彼女は付き合ってきた。マヒルにお金を無心する妹・和代(モトーラ世理奈)との会話から、母親の交際相手とも付き合っていたことが分かる。自分はクズを収めるクズ箱だとマヒルは自認している。いつか、東京中のクズをみんな焼き払いたいと願うマヒル。顔は整っているマヒルだが、心の中はぐちゃぐちゃだった。

 待機部屋でおしゃべりばかりしているアツコ(佐津川愛美)も、入店したての頃は店長からもお客たちからもチヤホヤされたに違いない。今では予約が入ることはなくなってしまったが、それでも店に来て待機部屋で時間を潰す。まるで牢名主のようだ。この店は他に行き場のない者たちの溜まり場だった。マヒルよりさらに若い、モデル体型のリユ(野崎智子)が入店し、店に不穏な空気が流れる。

 新人のリユが口にした「こんなところで働いている以上、みんな社会不適合者でしょ」というストレートな言葉に、すでに一触即発状態だったアツコがブチ切れる。社会の底辺ゆえの安定感が失われてしまう。結局のところ、ここも「カチカチ山」の泥舟だった。穴が開いた泥舟から、カノウたちはどうやって逃げ出すのだろうか。セーフティネットとしての役割があると言われる風俗業界だが、そこから抜け出すことは容易ではない。
 
 本作で長編映画デビューを果たした山田佳奈監督は、劇団「ロ字ック」を主宰しており、AV業界を舞台にした『全裸監督』の脚本チームの一員として、主に女性パートを担当した。内田英治プロデューサーは伊藤沙莉主演映画『獣道』(17)の監督として注目され、『全裸監督』のメイン脚本、および第2話と第4話の監督も務めている。現代社会を生きる女たちの声にならない心の叫びが炸裂する本作は、『全裸監督』の番外編的な面白さがある。

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