『コブラ会』はカラテ映画に偽装したキリスト教的映画だった!受難の果ての成功
#映画 #宗教 #Netflix #産業医と映画Pによる配信作品批評「ネフリんはほりん」
サブカル好き産業医の大室正志とB級映画プロデューサーである伊丹タンが、毎回ひとつのVOD作品を選んで、それぞれの立場から根掘り葉掘り作品を掘り尽くす本連載。
今回のテーマはNetflixで話題の配信ドラマ『コブラ会』。前編(『ドラゴンボール』は『ベスト・キッド』をパクった?あれから30年後を描いた『コブラ会』が大ヒット!)ではオリジナル作品『ベスト・キッド』が日本文化に与えた影響や、『コブラ会』が現代アメリカ人に受け入れられた理由を分析してきたが、今回はいったいどんな話が展開されるのか⁉
エンタメテクニックとしての聖書と“東洋フレーバー”
――本作では、『ベスト・キッド』で(ノリユキ・)パット・モリタが演じたミヤギ(宮城成義)さんの話もたびたび登場します。
伊丹 東洋人である我々が『ベスト・キッド』の話をするとき、ミヤギさんの存在抜きにして語ることはできないよ。
大室 ミヤギさんの描き方は、当時の西洋人が考える東洋人のステレオタイプですね。言葉少なで、でもそこには深い意味があって、東洋の神秘的な思想が見え隠れする。簡単に言うと、『スター・ウォーズ』で(ジョージ・)ルーカスが描いたヨーダ的なキャラクター。禅や道教がヒッピー思想に影響を与えたように、アメリカ人ってこういうオリエンタリズムが好きですよね。空手アクションも盛り上がる。忍者も空手もベタだなとは思うけど、日本のファンタジーアニメやドラクエなどのゲームも中世ヨーロッパモチーフばかりだし、このへんはお互いさまかもしれない。
伊丹 ただ80年代含めて、歴史的にアメリカ映画ってモチーフにキリスト教を使うことが圧倒的に多い。アメリカは移民の国だからどんなエンタメを作っても、サブテキスト(物語背後に隠されたテーマ)で聖書の構造を使うのが王道なんだよ。キリスト的主人公にしたり、受難の果てに何かを成し遂げるストーリーにしたり。
大室 日本人にとっての桃太郎みたいなね。誰でも話の筋は知ってる。
伊丹 『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』(晶文社)という(アルフレド・)ヒッチコックと(フランソワ・)トリュフォーの対談本でも、「聖書を主題にしてスペクタクル史劇から心理的西部劇などあらゆるジャンルをこなしていく」のが、アメリカの商業映画の歴史だとトリュフォーも言っている。
大室 なるほど。
伊丹 例えば『ロッキー』だと、キリスト絵画のカットを冒頭で映して、これはキリストの復活劇ですよと暗示する。さらに打たれて打たれて受難の果てに復活を遂げる。これは明らかにロッキーをキリストとして描いてるわけ。聖書をサブテキストにすることで見やすくなるし神秘性が出るから、アメリカの商業映画の多くの作品ではテクニック論として意識的/無意識的に聖書を活用してる。
――『ベスト・キッド』でもそういった聖書モチーフがある?
伊丹 ミヤギさんの職業は大工で、キリストのお父さんも大工。あとダニエル(・ラルーソー)が大会の準決勝で、相手の反則によってケガするじゃない? そこでミヤギさんが手をこすってケガを治療するという奇跡を起こすさまも聖書的な描写になっている。
大室 東洋人のグランドマスターという役回りだけど、キリスト的神秘性を背負わされてると。
伊丹 ほかにもダニエル親子がオープニングで、東海岸のニュージャージーから西海岸のカリフォルニアに引っ越してくるけど、そこでも母親が新居を「エデンの園」だと言ってる。さらに最後の必殺技の構えもキリスト教の三位一体、トリニティを連想させる。これもアメリカ人からしたら、いろんな大学のロゴにされてたり、超使い古されてるベタベタな宗教的シンボル。こういうことをアヴィルドセンは意図的にやる監督なんだよね。
大室 そう考えると、『ベスト・キッド』や『コブラ会』は(スティーブ・)ジョブズやルーカスみたいに本当の意味で東洋思想にかぶれた作品というよりは、聖書をベースにした東洋フレーバーの効いた作品といえるかもね。
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