“裏切り者”扱いされたミュージシャンの回顧録青春の終焉『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』
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「この映画は大音量で上映すべし」
そんなテロップから、マーティン・スコセッシ監督のドキュメンタリー映画『ラスト・ワルツ』(78)は始まった。ロックバンド「ザ・バンド」が1976年に行った解散ライブの様子を収めた『ラスト・ワルツ』は、音楽産業に飲み込まれる直前のロックシーンを記録した映画としてコアな人気がある。そのスコセッシ監督が製作総指揮に回った新作ドキュメンタリーが、『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』(原題『Once Were Brothers』)だ。ザ・バンドの前身「ザ・ホークス」の頃からの歴史をたどり、なぜ彼らは解散ライブを行うことになったのか、ザ・バンドの内幕を明かした内容となっている。ザ・バンドのファンはもちろん、ロックの世界で生きることを夢見た若者たちの青春ドラマとしても楽しむことができる。
ザ・バンドの「頭脳」を請け負ったロビー・ロバートソンの視点から、ロック界の夢物語は回顧されていく。カナダのトロント生まれのロビーは、ネイティブアメリカンの母親によって育てられた。実の父親はユダヤ系のゴロツキで、ロビーが生まれる前に拳銃で撃たれて死んだという。幼い頃からロビーは母親が生まれ育ったインディアン居留地を訪ね、親族にギターの演奏を学んでいる。ロビーの独特なギターの音色は、彼の生い立ちによるものが大きいようだ。
やがてロビーは、カナダをドサ回り中だったロカビリーシンガーのロニー・ホーキンスのバックバンド「ザ・ホークス」に加わる。ロビーはまだ15歳だったが、ロニーに新曲2曲を提供するなど、音楽的才能をロニーから認められる。「ザ・ホークス」には、ロビーより3歳年上のドラム奏者がいた。ザ・バンドの「心臓」となるリヴォン・ヘルム だ。リヴォンは米国南部出身、金髪の美しい若者だった。年齢が近く、演奏力のあったリヴォンとロビーは懇意になる。ロニーいわく「『トム・ソーヤーの冒険』に出てくるトムとハック・フィンのよう」に2人はいつも仲良くつるんだ。
ロビーとリヴォンが中心となって、「ザ・ホークス」の新メンバー探しが始まる。米国から来たベテランミュージシャンたちはカナダの寒さに耐えられず、次々と帰国してしまうからだ。ベース以外にも多彩な楽器が演奏できるリック・ダンコ、純粋な心を持つピアニストのリチャード・マニュエル、クラシック音楽の造詣も深いキーボード奏者のガース・ハドソン、3人のカナダ人が新メンバーとして加入する。新生「ザ・ホークス」は演奏力に優れていただけでなく、リヴォン、リチャード、リックはボーカリストとしても素晴らしかった。給料は安いけど女性にモテモテの日々に別れを告げ、「ザ・ホークス」は兄貴分ロニーの元から巣立つことになる。
米国での活動を開始したロビーたちは、NYでボブ・ディランと出会い、運命が大きく変わる。ディランのツアーに、バックバンドとして「ザ・ホークス」は同行することになったのだ。
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