催眠術、オウム真理教、マインドフルネス……科学と交差した仏教と“あやしげなもの”
#宗教 #碧海 #仏教 #マインドフルネス #瞑想
「マインドフルネスをビジネスに活かす」「瞑想で健康になる」といった言葉が当然に流通するようになった。仏教由来のプラクティスが「科学的に効果が裏付けられた」として「能力開発」に利用されている。
近代仏教研究者・碧海寿広氏の新著『科学化する仏教 瞑想と心身の近現代』(角川選書)によれば、実はこうした形での科学と仏教が交差するロジック/欲望は、近世以降、催眠術やLSD、超能力開発などのあやしげなものとも結びつきながら何度も繰り返されてきたことだという。
催眠術から密教ブーム、オウム真理教、マインドフルネスまでをカバーする「科学と仏教」の関わりの歴史について、同書の著者・碧海氏に訊いた。
オウムに入信した科学者の毒ガス製造
――『科学化する仏教』では催眠術やLSD、超能力開発など、今から見ると「おいおい」と思えるものについて触れられていますよね。注目された当初は「科学で扱える」という期待があり、そしてそれによって宗教体験や仏教が説いてきたものが科学的に語れるかもしれないという期待があったという、「(疑似科学も含む広い意味での)科学と仏教」の交錯の歴史が書かれています。
碧海 まさにこの本を書いたひとつの大きな動機は、そこにあります。一時的にもてはやされるんだけれども、時代が経つと「なんでこんなことやってたんだろう」というものが、宗教と科学がクロスする場所には多い。今のマインドフルネス・ブームだって、時代が下ったらそうなっている可能性もあります。そして、科学と仏教の交差には百数十年の歴史があり、おそらく今後も似たような現象が繰り返される。だから、俯瞰して整理しておく必要があると思ったわけです。
――荻野真の『孔雀王』(集英社刊)や夢枕獏の『サイコダイバー』(祥伝社刊)など、80年代の伝奇マンガや小説でやたら密教ネタが多いのは、前段として70年代から密教と超能力開発を結びつけたブームがあったからか、と同時代を生きていなかった人間としてやっと理解できました。
碧海 オカルトと密教、ポップ・カルチャーは相性がよく、「密教の加持祈祷は催眠術だ」というようなことが戦前からいわれていました。それが、戦後にはチベット密教など外来のものも混ざって、より広く流通するようになりました。マンガなどで当たり前に使われる「チャクラ」のような用語だって、もともとは密教やヒンドゥー教由来ですからね。
――そして、そういう「ネタ」を現実にしたような密教的な修行と神秘体験、超能力開発をうたっていたのがオウム真理教だったことも書かれています。
碧海 オウムは密教に限らず非常に雑多なものを混ぜ合わせていて、事件が発覚する以前はその奇妙なところが面白がられている新興宗教でした。麻原彰晃(松本智津夫元死刑囚)がどこまでサイエンスと宗教を本気で組み合わせようとしていたのかは不明ですが、弟子たちは「ヘッドギアを使って麻原の意識を共有する」といった修行を本気でやっていたと思います。科学者の中には特定の信念を獲得すると徹底してやってしまう人もいて、教団が提供する極限状態の体験と価値観の刷り込みが組み合わされた結果、オウムに入信した科学者たちは毒ガス製造などに至りました。
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