芦田愛菜が演じる『麒麟がくる』細川ガラシャ“美人説”はどこからきたのか? その歴史を紐解く
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大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)が、ますます盛り上がりを見せている。ドラマをより深く楽しむため、歴史エッセイストの堀江宏樹氏が劇中では描ききれない歴史の裏側を紐解く──。前回はコチラ
歴代のNHK大河ドラマではもちろん、各種創作物の中でも「絶世の美女」とされることが圧倒的に多い「細川ガラシャ」。ガラシャの名前は明治時代以降、一般的になったもので、本名は「明智たま」あるいは「明智玉」なのですが、今回は一般化している、ガラシャの名で彼女のことを呼ぼうと思います。
最近の大河ドラマでは美村里江さん(『江~姫たちの戦国~』2011年)や、橋本マナミさん(『真田丸』16年)が演じてきたガラシャ役。『麒麟がくる』でも、女優さんは神秘的な美女キャラの人が選ばれるのではないか、と推察していたところ、10月16日、芦田愛菜さんに決定したというニュースが流れ、筆者は多少めんくらいました。
ただ、明智光秀(長谷川博己さん)が亡くなった時、ガラシャは数え歳で20才(満年齢19歳)。芦田愛菜さんは現在、16歳だそうですので、これは年齢を配慮した配役だろうなと思われます。
彼女は明智の4人いた娘の中で、名前が唯一わかる女性です。本名は明智玊(たま)もしくは玉子(たまこ)。先述のとおり、彼女が歴史上「細川ガラシャ」と呼ばれ始めたのは、そこまで古いことではなく、1920年代以降……つまり今からちょうど100年ほど前からだそうです。
ガラシャは大河ドラマでも「キリスト教の信仰に殉教して亡くなった悲劇の“美女”」として描かれることが多く、その「設定」がゆらぐことはありません。しかし、彼女の同時代人たちの証言の中で、ガラシャが美しいと述べた記録は、まったく、ひとつもないことを読者はご存知でしょうか。
夫である細川忠興(ただおき)、さらに彼女に支えた侍女たちの誰ひとりとして、ガラシャを美しいとは言っていない……つまり、ガラシャ美人説には何の歴史的な根拠がないのです。
彼女はクリスチャンとして洗礼も受けているので、イエズス会の宣教師も彼女のことは知っています。しかし、西洋人の宣教師も、誰ひとり、ガラシャのことを美しいとは言っていません。これは驚くべき事実かもしれませんね。実際、筆者もこの「真実」を知った時にはかなり驚いてしまいました。
ガラシャは複数の宣教師たちと交流しています。大阪の教会を訪ねた時は、グレゴリオ・デ・セスペデスと直接会って、会話もしています。また、日本語がうまくないセスペデスの代わりにガラシャと主に対話したのは、「器用で、容貌がよく、相応のよい性格の持ち主(フロイスの証言)」である日本人修道士・高井コスメ(※コスメは洗礼名)という人物でした。
コスメはイエズス会では書記として、各種証言をとりまとめる仕事をしていました。また、織田信長と面会したことでも知られますね。
このコスメ相手にガラシャは、キリスト教が信仰するに値する宗教かどうかを見定めるべく、激しい宗教問答を繰り広げたそうです。そして、最終的にキリスト教の信者となると決心したのでした。
コスメはこの時のガラシャの姿を記すべく、イエズス会の『1587年の日本年報』に記事を書き、「これほど理解力がある女性には会ったことがない」と明記しています。また、別の宣教師アントニオ・プレネスティーノは、セスペデスからの報告を受け、「(ガラシャ)夫人は、大変な理解力と聡明さを備えた人だった」などと記録、バチカンにも送っています。
……などなど、ガラシャが並外れた“インテリ”だったというコメントは次々と発掘できるのですが、彼女の容姿について触れた同時代の人物の証言は、ゼロなのでした。
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