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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 河瀬直美監督映画『朝が来る』レビュー
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.606

現代日本の歪みを照らし出した社会派ミステリー 出産と子育てがもたらす不幸と幸せ『朝が来る』

原作者や監督たちが祈りを込めたラストシーン

 

海外では一般化している養子縁組を、浅見(浅田美代子)は日本で広めようとしていた。

 子どもを産む機会には恵まれなかった佐都子だが、朝斗を養子に迎えたことで母親になる喜びを知った。一方のひかりは若くして妊娠・出産したことで、社会からドロップアウトしてしまう。佐都子の幸せな生活は、ひとりぼっちの少女・ひかりの不幸と表裏一体の関係にある。河瀬監督のドキュメンタリータッチの手法が、現代社会の歪みをとても鮮やかに浮き彫りにしてみせている。

 本作と同じく家族のつながりを題材にした『八日目の蝉』(11)の永作博美、『かぞくのくに』(12)の井浦新が子どもに恵まれない夫婦を演じた前半パートだけでも充分引き込まれるが、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)に主演した蒔田彩珠が10代の妊婦を演じた後半パートはさらに強烈なインパクトを与える。河瀬監督作からは、『萌の朱雀』(97)の尾野真千子、『2つ目の窓』(14)の阿部純子らが実力派女優に育っている。蒔田彩珠もこれからの活躍が楽しみな逸材だ。

 レコードのA面、B面を終え、物語はフィナーレへと進む。コインの裏表の関係にあり、出会うことのないはずだった佐都子とひかり。その2人を引き合わせることになるのが朝斗だった。朝斗の存在が、2人の女性の人生を交差させることになる。

 核家族化が進んだ今の日本では、実家からの支援なしで子どもを育てることは容易ではない。行政が少子化対策を打ち出しても、付け焼き刃感はぬぐえない。でも、今いる子どもたちには、未来は希望が感じられるものだと教えたい。シビアな現実を描いたドキュメンタリータッチの社会派ドラマだが、ラストシーンには原作者や監督たちの祈りが込められている。暗い社会にささやかな明かりを灯すもの、それは我が子と同じように他者を思いやる心だった。

『朝が来る』
原作/辻村深月 監督・脚本・撮影 /河瀬直美 脚本/高橋泉
出演/永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子、佐藤令旺、田中偉登、中島ひろ子、平原テツ、駒井蓮、堀内正美、山本浩司、三浦誠己、池津祥子、若葉竜也、青木崇高、利重剛
配給/キノフィルムズ 、木下グループ 10月23日(金)より全国ロードショー
(c)2020「朝が来る」Film Partners
http://asagakuru-movie.jp

最終更新:2020/10/23 11:00
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