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日刊サイゾー トップ  > ビル・バーが訴える “ウォークカルチャー”の危うさ
スタンダップコメディを通して見えてくるアメリカの社会【13】

ビル・バーが訴える “ウォークカルチャー”の危うさ「アメリカの抗議活動は白人女性に“ハイジャック”された」

ジョークの矛先はLGBTQにも…

 そしてジョークの矛先は、LGBTQにも及ぶ。アメリカではLGBTQの権利を讃えるいわゆる「プライド月間」が6月に指定されており、各地でパレードなどが行われる。また2月はアメリカにおける黒人の歴史を回想する「ブラック・ヒストリー・マンス」が設けられ多くの学術的、芸術的なイベントが催される。

「プライド月間は長すぎないか? 奴隷にされたことない人たちに気候も最高な6月の30日間を与えて、過去に奴隷にされていた黒人には2月っていう寒くて誰も外に出たくない28日間だけだぞ。代わりに7月をあげたらどうだ? そしたら黒人のゲイは61日間パレードができる」

 いかにもビル・バーらしいジョークで締めた。

 放送後の反応はまさに賛否両論。

 大手の新聞も含め、「ミソジニスティック(女性蔑視)だ」「LGBTQの尊厳を無視している」「歴史を踏まえていなさすぎる」と論じたかと思えば、「スカッとした」「これぞ彼の持ち味」とする意見も。ネット上では、肯定派が否定派を「スノーフレーク(雪の結晶)」だと揶揄した。「スノーフレーク」とは雪の結晶のようにそれぞれ形が違っているように、元々は個性を重んじる表現として用いられてきたのだが、近年では結晶のように脆くすぐに傷つく人々のことを否定的に表す意味で使われている。

 そしておそらく今回の批判的な意見の根底には「白人ヘテロセクシャル(異性愛者)男性という“マジョリティ”である立場から言うべきジョークではない」という前提がある。それだけにマイノリティへ向けられたジョークが槍玉に挙げられ批判の的となった。

 しかしながらこうして巻き起こった論争こそ、ビル・バー本人が今回の作品を通して意図的に生み出した現象なのではと思わずにはいられない。コメディアン、ビル・バーが「白人男性」というペルソナから、マジョリティが2020年、今まさに抱える「生きづらさ」を代弁する形となった8分間。放送後の論争で改めて顕在化した「怒れる人々」と「“キャンセル”したがる人々」という実態。

 “キャンセル”されることを恐れ、コメディアンが何も言えなくなってしまっている世の中に”Comedian’sComedian”が代表して立ち向かう気概を見た。

<ビル・バー>
1968年、マサチューセッツ州生まれ。スタンダップコメディアンとしてNetflixの作品にも数多く出演する傍ら、2007年から配信を続けるポッドキャスト『マンデーモーニング・ポッドキャスト』は多くのコメディファンに影響を与え、全世界にリスナーを持つ。俳優としても人気ドラマ『ブレーキングバッド』などに出演するなど活動の場を広げる。

Saku Yanagawa(コメディアン)

アメリカ、シカゴを拠点に活動するスタンダップコメディアン。これまでヨーロッパ、アフリカなど10カ国以上で公演を行う。シアトルやボストン、ロサンゼルスのコメディ大会に出場し、日本人初の入賞を果たしたほか、全米でヘッドライナーとしてツアー公演。日本ではフジロックにも出演。2021年フォーブス・アジアの選ぶ「世界を変える30歳以下の30人」に選出。アメリカの新聞で“Rising Star of Comedy”と称される。大阪大学文学部、演劇学・音楽学専修卒業。自著『Get Up Stand Up! たたかうために立ち上がれ!』(産業編集センター)が発売中。

Instagram:@saku_yanagawa

【Saku YanagawaのYouTubeチャンネル】

さくやながわ

最終更新:2023/02/08 13:21
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