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『鬼滅の刃』女性キャラクターたちの悲愴──胡蝶しのぶの“戦い方”が表す現代女性の生きづらさ

炭治郎と産屋敷が担う「母性的博愛」の意味

 ところで、本作はあらゆる人間関係の回復に「母性的博愛」が伴うが、それを発揮するのが主人公の炭治郎と鬼殺隊当主・産屋敷耀哉、すなわちいずれも男性であるのはポイントだ。

 炭治郎は猛々しい強さを振りかざさない。常に笑顔と上機嫌を絶やさず、すべてを優しさと慈悲で包み込むクラシックなまでの母性に満ちている。耀哉は同じく組織の長である無惨とは対照的に、鬼殺隊の剣士たちを「私の子どもたち」と呼んで慈しみ、まるで小学校の優しい女性担任のような疑似母性を振りまく。声質は1/fゆらぎを帯びていて聞く者を和ませる。最終的には滅私的母性を最大限発揮して自爆し、無惨を道連れにしようとするのだ。

 女性キャラが女性ゆえに受ける苦しみを告発する一方で、最重要男性キャラ2人が――かつては女性の専売特許だった――母性をもって調停する物語。それが(名目上は)若年男性がメイン読者であるマンガ誌に載る時代が、今なのだ。「お前ら、女子をちゃんと学べ」の囁きが聞こえてくる。ヒステリックな女性の声ではなく、1/fゆらぎを帯びた男性の声で。

『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴・著/集英社)
既刊22巻(10月現在)。炭治郎の妹・禰豆子(ねずこ)に与えられた萌え属性の密度が濃い。不完全に鬼化したハーフ獣ゆえ「美少女なのに強い」というギャップ萌え。意思で体をミニサイズ化でき、炭治郎の背負う箱に収納されるという倒錯ポルノ感。鬼化の影響で常に呆けている(のちに片言を発する)白痴少女キャラ。噛みつき防止のための竹製の口枷もアダルトグッズみが強い。無敵。

稲田豊史(編集者・ライター)

編集者/ライター。キネマ旬報社を経てフリー。『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)が大ヒット。他の著書に『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)、『オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情』(サイゾー)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)などがある。

いなだとよし

最終更新:2020/10/17 11:00
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