『鬼滅の刃』女性キャラクターたちの悲愴──胡蝶しのぶの“戦い方”が表す現代女性の生きづらさ
#映画 #アニメ #マンガ #鬼滅の刃 #吾峠呼世晴
“女性の鬼”が抱える貧困と共依存の地獄ループ
女性の鬼に漂う女子の悲哀は、さらにいたたまれない。吉原を棲家とする花魁の鬼・堕姫はもともと人間で、遊郭の最下層、極貧の母子家庭に生まれた美しい娘だった。人間時の名前「梅」は母親の病気:梅毒から。13歳で娼婦として取った客の目玉を突いて失明させ、その報復として生きたまま焼かれてしまう。
その妹を後生かわいがっていたのが、忌み嫌われる容姿の兄・妓夫 太郎だ。妓夫太郎は自分のコンプレックスを美人の妹がいるという事実で解消、一方の鬼化した梅(堕姫)は兄より戦闘力が劣るというコンプレックスとそれによって迷惑をかけている申し訳なさを、兄への従属的執着に転化していた。不遇からの共依存にブラコン。……地獄だ。
累という少年の鬼に支配されている女性の鬼も不遇だ。累は鬼同士で疑似家族を作って家長的なポジションに収まっており、母役と姉役の鬼はいつも彼の顔色をうかがっている。累は家族の「絆」に固執するあまり、DVによって家族を支配しているのだ。「絆」を盾に男家族から虐げられ、拘束され、とはいえ家を出ることもできないのが、母役や姉役の鬼である。
そもそも敵の首領である鬼の支配者・鬼舞辻無惨の組織統括スタイルが、暴力家長による妻へのモラハラのど典型「ダブルバインド(二重拘束)」そのものである。ダブルバインドとは文化人類学者グレゴリー・ベイトソンが提唱した家庭内コミュニケーションの一形態。ふたつの矛盾した命令を出し、どちらに従っても叱責することで相手に精神的なストレスを負わせ、服従させるやり方だ。
無惨は手下の鬼に「鬼狩りと遭遇したら逃亡しようと思っているな」と問うが、「思っていません」という答えに対し、「お前は私が言うことを否定するのか?」とキレて殺す。他の鬼も命乞いすべく無惨に様々な提案をするが、その提案自体が無惨にとっては「自分に対する指図」であり、自分に指図したという罪で殺す。
モラハラ夫は妻が何をしても怒り、殴る。すべては夫の気分。こうして妻は常に夫の顔色をうかがうようになり、自尊心を根こそぎ剥奪され、常に罪悪感を抱きながら怯えて生きるようになるのだ。このような精神的DVを受けている女性は少なくないが、物理的暴力ではないため本人にもDVを受けている自覚がないだけに、発覚しにくい。
ジェンダー問題と「女子らしさ」の呪縛、母子家庭に貧困に育児放棄、男性社会における女性の無力と# MeToo、ブラコンに共依存、家庭内モラハラと精神的DV。人生ハードモード以外の何物でもない女性キャラの博覧会だ。
ジャンプ作品が小中学生男子だけに読まれていたのも今は昔。単行本での読者も含めれば現在では相当数の女性も読者であり、本作も10代から40代まで幅広い層の女性読者がブームを牽引したという。本作がF1層を中心とした現代日本女性の鬱屈した生きづらさを代弁しているのなら、それも当然。と同時に、従来の小中学生男子に「女の人って大変なんだな……」と痛感させるフェミ教育的な側面も多分にある。
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