殺人犯や精神障害者の社会復帰は許されない? 贖罪の意識が歴史的事業を支えた『博士と狂人』
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それぞれの文化事情が反映される辞書映画
辞書は言葉の意味を知るためのものだ。そして言葉は、他人と理解しあうためにある。だが、マレー博士の妥協なき辞書づくりは刊行予定を大幅に遅らせ、また殺人犯であるマイナーが編纂に関わっていることが新聞報道され、大学の上層部から厳しく責められる。マイナーも未亡人イライザとの間に生まれた、より複雑な葛藤に苦しむことになる。自分の感情を正しく表現した言葉を見つけようとすれば、探せば探すだけ感情はその隙間をするりと逃げ出してしまう。ようやく適切な言葉を見つけても、言葉は生きており、刻一刻と言葉そのものも変化していく。辞書づくりのゴールは、果てしなく遠い。
三浦しをん原作小説を石井裕也監督が映画化した『舟を編む』(13)は、ライトな青春ラブストーリーとして楽しめた。韓国映画『マルモイ ことばあつめ』(19)は、アクションやコメディなどの娯楽要素が満載だった。ビクトリア朝時代の英国を舞台にした『博士と狂人』には、ハリウッドの人気スター共演による重厚な人間ドラマとしての見応えがある。どれも辞書づくりを題材にした映画だが、それぞれのお国がらや文化事情が反映されており、どの作品も面白い。
辞書映画の主人公たちは、まるで自分の家族を営むかのように時間を費やして、辞書づくりに情熱を捧げる。辞書だけでなく、人間社会そのものが小さな言葉の数々を積み重ねることで構成されている。社会で過ごす一日一日が重なり、歴史の一部となっていく。『博士と狂人』を観ていると、そんなことに気づかせられる。
『博士と狂人』
原作/サイモン・ウィンチェスター 監督・脚本/P.B.シェムラン
出演/メル・ギブソン、ショーン・ペン、ナタリー・ドーマー、エディ・マーサン、ジェニファー・イーリー、スティーヴ・クーガン
配給/ポニーキャニオン 10月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
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