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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.604

日本のいたずらテレビに出演するはずが殺人犯に!! 実話ミステリー『わたしは金正男を殺してない』

人気タレントになれるかも、という射幸心

「LOL(爆笑)」と書かれたTシャツ姿のドアン。自分の手に猛毒が塗られていることを知らなかった。

 シティが働き始めたクアワランプールのマッサージ店は、地元では性風俗店として知られていた。稼ぎは上がったが、出費も増え、手元に残るお金は少なかった。そんなときにシティも声を掛けられた。日本から来たというジェームズは、シティに「いたずら動画に出演しないか」と持ちかけた。整った顔立ちのジェームズの言葉を、シティはすっかり信じ込んでしまう。シティはスマホの翻訳機能を使って、ジェームズと打ち合わせた。

 ドアンに声を掛けたミスターY、シティに近づいたジェームズ、どちらも「いたずら動画」への出演を持ちかけた。いたずら動画はSNS上で人気があり、そんな動画を紹介するテレビ番組はアジア各国で放送されている。2人に持ちかけられた依頼内容は、街を歩いている見ず知らずの人にベビーオイルを垂らした手で触って逃げるというもの。「このいたずらのどこが面白いの?」と思うかもしれないが、「日本では流行っている」と説明されれば、うなずくしかなかった。通りすがりの人に牛乳を浴びせるなど、ひどいいたずら動画はいくらでもあった。

 1回の動画撮影につき、日本円で一万円ほどが支払われた。シティが衣料店で働いていた頃の月給と変わらなかった。家賃の支払いに困っていた2人にとっては、魅力的な金額だった。しかも、いたずら動画で注目を集めれば、人気タレントになれるかもしれない。そんな射幸心が、ドアンとシティの気持ちを動かした。

 韓国の芸能界に憧れるドアンには、韓国人を自称するミスターY、マッサージ店で働くシティには金払いのよさで知られる日本人を装ったジェームズ、とそれぞれ異なる工作員が近づいた。事件当日まで、ドアンとシティの間には接点がなかった。犯行の決行前に、いたずら動画の撮影は何度も繰り返された。2人はそれが暗殺の予行演習だとは知らずに、思い切っていたずらすることに励んだ。そして、2人は運命の日を迎える。

 2017年2月13日、クアラルンプール国際空港に現れた大柄なアジア人男性に、シティが、続いてドアンがじゃれつくようにして液体で濡れた手で男性の顔に触れた。「ごめんなさい」と言って、2人はその場から逃げ出した。2人はその男性が金正男であることを知らなかった。金正男は空港職員に襲われたことを訴え、よろける足で空港内の医務室へと向かった。医者による救命措置は間に合わず、襲撃から30分後には意識を失い、そのまま絶命する。死体からは致死量の1.4倍にあたるVXが検出された。

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