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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.604

日本のいたずらテレビに出演するはずが殺人犯に!! 実話ミステリー『わたしは金正男を殺してない』

 

金正男暗殺の実行犯として逮捕されたドアン・ティ・フォン(画像右)とシティ・アイシャ。

 ベトナム北部の農村で育ったドアンは、5人兄妹の末っ子だった。気の優しい、親しみやすい性格の女の子だったが、父親はベトナム戦争で片足を失っており、経済的には恵まれていなかった。ドアンはアルバイトを掛け持ちし、ハノイの私立大学で会計を学ぶ。大学卒業後は経理の仕事を探したが、思うような職場には就けなかった。ドアンはパブの接客業をしながら、アイドルに憧れるようになる。胸元が大きく開いた衣装で、オーディション番組に出演したこともある。テレビに映ったのはわずか20秒ほどだったが。そんなドアンのもとに、「いたずら動画に出演しないか? 日本のテレビ番組向けのものだ」という仕事の依頼が寄せられた。知人から紹介された依頼人は、ミスターYと名乗った。ドアンはこの話に飛びつく。まさか、自分が暗殺者に仕立てられるとは夢にも思わなかった。

 ドキュメンタリー映画『わたしは金正男[キム・ジョンナム]を殺してない』(原題『ASSASSINS』)は、ネット社会の落とし穴を描いた社会派ミステリーだ。題材となっているのは、2017年にマレーシアで起きた金正男暗殺事件。北朝鮮の前国家主席・金正日の長男として生まれた金正男は、クアラルンプール国際空港の出発ロビーという多くの人が行き交う場所で猛毒の神経剤VXによって殺害された。この怪事件は世界に大きな衝撃を与えた。

 神経剤VXは国際間で使用が禁止されている化学兵器であり、この事件には北朝鮮の工作員が関わっていると見なされた(北朝鮮側は関与を否定)。だが、事件から2日後に逮捕されたのはベトナム国籍のドアン・ティ・フォン(28歳※2017年当時、以下同)とインドネシア国籍のシティ・アイシャ(25歳)という暗殺者にはおそよ見えない2人の若い女性だった。米国のドキュメンタリー作家であるライアン・ホワイト監督はマレーシアで開かれたドアンとシティの裁判に通い続け、殺人犯として起訴された2人を中心に謎に満ちた金正男暗殺事件の顛末を追っている。

 インドネシア出身のシティも、ドアンと同じように農村一家の末っ子だった。敬虔なイスラム教信者である実家は貧しく、シティは小学校を卒業した後は中学には進学せず、家計を支えるためジャカルタの縫製工場で働き始める。16歳のときに雇い主と結婚し、17歳で息子を出産。だが、結婚生活は4年しか続かずに離婚。息子は夫の実家に引き取られ、シティはまたひとりで働くようになる。衣料店などで真面目に働いていたシティは、より給与のよい仕事を求めて隣国マレーシアの首都クアラルンプールへと渡る。大都市での生活は、シティの気持ちを高揚させるものがあった。

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