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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > ベネチア映画祭問題作『異端の鳥』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.603

疎開先の村人たちが繰り返した暴力と性的虐待! 差別と偏見まみれの“世界名作劇場”『異端の鳥』

日本でも起きている戦時下の犯罪の数々

東欧に進駐してきたソ連軍は、略奪と強姦を重ねる。原作小説『ペインティッド・バード』はポーランドで発禁処分となった。

 戦争によって、戦場ではない平和な村々にも暴力が伝播していったのだろうか。それとも、もともと保守的な地域にはびこっていた暴力が、戦時下という状況によって表面化しただけなのだろうか。おそらく、その両方なのだろう。チェコ出身のヴァーツラフ・マルホウル監督は本作の製作に11年、撮影だけでも2年を費やして完成させた。特定の国だと思われないよう、ドイツ語とロシア語以外はスラヴ語圏内で使われている共通言語・スラヴィックエスペラント語を使うという配慮を見せている。主人公の少年に対する暴力シーンや性的虐待シーンは、大人が代役しているそうだ。

 戦時下の暴力や犯罪で思い出すのは、1938年の岡山県の山村で起きた「津山三十人殺し」だ。この事件を題材にした田中登監督の『丑三つの村』(83)では村一番の秀才・犬丸継男は夜ごとに人妻たちへの夜這いを楽しんでいたが、結核のため兵役検査に落ちてしまう。村八分扱いされるようになった継男は猟銃で武装し、村人たちを相手にひとりぼっちの戦争を始める。日中戦争下にあり、太平洋戦争前夜だった社会背景が、山村で起きた大量殺戮事件に大きく影響していた。

 朝鮮戦争中の1950年には北九州市の小倉で、米軍基地から黒人兵およそ250人が集団脱走し、近くの民家に押し入り、略奪行為や強姦を犯している。脱走兵たちは武装していたため、MP(米軍憲兵)や地元の警察は手を出すことができなかった。当時の日本はGHQ統治下であり、この事実はマスメディアには伏せられたが、小倉にある朝日新聞西部本社に勤めていた松本清張がこの事件をもとに短編小説『黒地の絵』を執筆している。事件を起こした脱走兵たちは、すぐさま朝鮮戦争の最前線に送り込まれたらしい。『黒地の絵』は何度か映画化が企画されているが、いまだに実現していない。

 上映時間2時間49分におよぶ『異端の鳥』を観てから、もう一度『母をたずねて三千里』や『家なき子』を見ると、子ども向きにとてもマイルドに描かれていた作品だったと思い直すだろう。不幸と暴力に慣れすぎた少年は、戦争が終わった平和な社会で無事に暮らすことができたのか心配だ。ユダヤ系ポーランド人である原作者イェジー・コシンスキは、亡命先の米国で作家としての名声を手に入れたが、57歳で自死を遂げている。

『異端の鳥』
原作/イェジー・コシンスキ 監督・脚本/ヴァーツラフ・マルホウル
出演/ペトル・コトラール、ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズ、バリー・ペッパー、ウド・キアー
配給/トランスフォーマー R15+ 10月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
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最終更新:2020/10/02 12:00
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