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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > ベネチア映画祭問題作『異端の鳥』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.603

疎開先の村人たちが繰り返した暴力と性的虐待! 差別と偏見まみれの“世界名作劇場”『異端の鳥』

暴力を楽しむ村の女たち

ハーヴェイ・カルテルは心優しい司祭の役。だが、神に祈るだけでは戦時下を生き延びることは不可能だった。

 村にある娯楽といえば、暴力かセックスぐらいだった。レッフが小鳥にペンキを塗って遊んでいる間、彼の恋人であるルドミラ(イトカ・チュヴァンチャロヴァー)は村の若者とのセックスを楽しんでいた。だが、そのことが村の女たちの怒りに火を点け、ルドミラは女たちからリンチに遭う。裸にされたルドミラは、股間にガラス瓶を突っ込まれ、そのガラス瓶は思いっきり蹴り上げられる。ルドミラは絶命、レッフもその後を追うことになる。少年はまたしても居場所を失った。

 戦争映画の多くは、戦争は男たちが始めたもの、女たちは被害者だったーという構図で描かれるが、本作では女たちも暴力を楽しんでいる様子が描かれている。日常生活の中で息苦しい思いをしていた女たちは、「村の若者をたぶらかしている」という正当な理由を得て、ルドミラを撲殺する。笑いながらリンチに加わる女もいる。マナー違反者を見つけては執拗にバッシングする、現代の「自粛警察」にとてもよく似ている。

 名優ハーヴェイ・カイテルが出演したエピソードも見逃せない。現在81歳になるカイテルは、心優しい司祭の役だ。ボロボロになった少年は、親切な司祭に拾われ、教会で過ごすことになる。侍者として働き始めた少年は安堵できる場所を見つけたかのように思えたが、そうとはならない。重い病気のために余命がいくらもないことを悟った司祭は、敬虔な信者であるガルボス(ジュリアン・サンズ)に少年を預ける。ガルボスは実は小児性愛者だった。ガルボスの性的餌食にされる少年は、様子を見にきた司祭にSOSを発する。司祭は少年のSOSに気付くが、「神に祈りなさい」としか口にしない。神さまも司祭も、この状況からは救ってくれない。少年は大人を頼るのではなく、自分で行動するしかないことを決意する。

 登場するのは、みんながみんな悪人ではない。少年の立場を理解し、手を差し伸べる大人もいる。ドイツ兵のハンス(ステラン・スカルスガルド)も、そのひとりだ。ハンスは収容所送りになる寸前だった少年を連れ出し、黙って見逃す。なぜハンスが少年を助けたのか理由は分からない。長く戦場にいた老兵のハンスに、贖罪の意識が働いたのかもしれない。

 やがて、東欧の田舎にまでソ連軍が進駐するようになる。進駐先の村々では略奪と暴行を重ねるソ連軍だが、ソ連軍きっての狙撃手であるミートカ(バリー・ペッパー)は少年には優しかった。ソ連軍の駐屯地で、ようやく少年は心安らぐ日々を迎える。無知で無教養な村人たちに比べれば、軍隊のほうが秩序が保たれており、少年にとっては天国のような場所だった。ソ連軍の軍服を与えられた少年は、この世界で生きていくには何よりも力が必要なことを思いしる。物語序盤のひ弱だった少年の顔つきは、別人のように変わっている。

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