『麒麟がくる』織田信長 “信頼”をカネで買う! 史実で追う「がめつい天皇」の集金術
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正親町天皇はなぜがめついのか
1557年(弘治3年)、正親町天皇は践祚(せんそ)、つまり天皇として即位します。ところが、天皇家にはカネがなく、即位したにもかかわらず即位の儀式は3年もできないままで、これは天皇にとっては痛恨のダメージでした。こうした経緯があるからか、私見によれば正親町天皇はカネに汚いというより、カネの力を知り尽くしている帝のように思われます。
関西には人形浄瑠璃の名セリフとして古くから、最近では西原理恵子の作品に引用されたことでも知られる「カネがなければ首もないのと同じ」という“格言”があります。豊富な財力に支えられていない権威など、誰からも信頼されないという非常に現実的な考え方ですけれど、正親町天皇は、毛利元就の献金ではじめて即位の儀式を執り行い、己の権威を世間に訴えることができたのでした。
儀式遂行の前後で、天皇をとりまく「空気」が変わったのでしょうか。その後の正親町天皇は各地の戦国大名に献金をせびりまくる……とまではいいませんが、献金を勧める(笑)手紙をたくさん書いたことで知られます。
「天皇に金銭で尽くしたら、天皇の権威をあなたも借りることができるかもしれない」という“取引”ですね。征夷大将軍の位も、足利将軍家の血筋だけでは与えられないってご存知でしたか? 天皇に大金を積んで、ようやく手に入るものでした。
ちなみに、ドラマの最後のほうで、阿波にいた足利義栄(あしかがよしひで)を十四代将軍として認めるという、将軍宣下の儀式のシーンがありましたよね。あの場面にいたるまで、実は彼は天皇から要求された金額を拠出できず、天皇は将軍宣下を断ったという事実がありました。歴史的な言葉でいえば「惣用不調」(『晴右記』)。
この時、既に前将軍・義輝の死から約3年が経過しているのに正親町天皇、やりますよねぇ。朝廷を会社にたとえると、社長である天皇みずからがトップセールスマンという感じです。
乱世は「カネがなければ首もないのと同じ」の世の中ですから、自分が財力に支えられた強い権威であることを武家の棟梁・将軍として天皇に対して証明せねばならなかったともいえます。それでも将軍があまりに長期間、不在では天皇も困りますから、両者の間で金額の折り合いがついて、将軍宣下の儀式が行われたというのが、ドラマのあのシーンのウラなんですね。
あの儀式だけでも、結構なカネがかかったはずです。というのも、足利義栄の将軍宣下儀式の諸経費はちょっとわからないのですが、足利義栄の次に将軍となった義昭のケースなら資料が見つかりました。足利義昭の儀式代として、天皇=朝廷側に支払った額が「千疋」。織田信長が肩代わりしています。
当時の貨幣では10貫=1000疋で、現在の米価を参考に換算すると、1貫=約6~8万円くらい。8万円説を採用するとあの手紙の朗読会みたいな儀式について、朝廷側へのお礼金だけで80万円か、それ以上はかかったようです。
なお、戦国武将が「○○守」とか官位っぽいものを名乗っているケースですが、これらの称号もすべて天皇=朝廷からカネで買わねばなりません。相場は30貫から100貫くらい。つまり現代の日本円にして240万円から800万円だったという説も。手元に資料がないのでわかりませんが、征夷大将軍のお値段はその何倍くらいしたのでしょうか。
ということで、ちょっとジミに思われた今回も背後には熱い話題が眠っていたのでした。次回以降の展開が楽しみですね! ではまた来週。
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