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日刊サイゾー トップ > エンタメ > アイドル  > アイドルファンとメディア論教授の対話(後編)

男性アイドル“ビジュアルだけを消費するファン”はもういない──JO1、山口達也、関ジャニ…etc.三次元オタクとメディア論教授の対話(後編)

男性未満、成人未満。アイドル男性のいびつな男性性

<CASE 04>関ジャニ、番組で深夜に一人歩きの女性に突撃事件
2019年1月1日に放送された「関ジャニ∞クロニクル 真夜中のおひとり様 東京大捜索スペシャル」で、関ジャニ∞のメンバーが深夜に1人で歩く女性に突撃取材。深夜にロケ車で見つけた女性の前に突然男性が現われる、逃げる女性を走って追うなどの演出、それを悪びれることなく演じる関ジャニ∞メンバーたちに、SNSでは批判の声が上がった。

関ジャニ∞「友よ」(インフィニティ・レコーズ)

A子 いや~ジャニーズばかりになっちゃいますね(苦笑)。

C子 やっぱり「バラエティ番組」に出る機会が多いから、笑いを求めすぎて倫理が疎かになるのかもしれないですよね。

B美 深夜に一人で歩いていたら、ロケ車から複数の男性が出てきて取り囲まれる。これ、女性にとっては恐怖以外の何ものでもないじゃないですか。普通に道ばたで起きたら、通報されて事件になりますよね。

田中 女性が男性に抱く恐怖心に無神経である感性の古さが気になるし、こんな企画を30代のいい大人にやらせるのも酷ですよね。アイドルが高年齢化しているのに、若い子たちにさせるような演出をつけるスタッフも、無邪気にその演出を受け入れるアイドルたちも、もう少し考えたほうがいい。

C子 そもそもアイドルって、きちんと年を取らせてもらえないところもありますよね。マッチョな男性たちからは「男未満」「成人未満」という扱いをされたりするし、しかもジャニーズはそもそもジャニーさんが「少年が好き」という美学を貫いていたし、ファンも少年性を愛する人が多いから……。

田中 30代になっても大人として振る舞わせてもらえない/振る舞えないことについては、きちんと問うていかないと。例えば、山口達也さんの事件なんかも、このことと無関係とは思えない。

A子 山口達也さん(元TOKIO)の強制わいせつ事件ですね。酩酊状態で共演している1人を含む10代の女子高生2人を電話で自宅に呼び出し、無理矢理キスをしたり、卑猥な言葉を投げかけたりしたと報道されました。アルコール依存症や躁うつ病で入院していて、一時帰宅中だったともいわれていますよね。TOKIOの気のいい兄ちゃんキャラとの落差に、多くのジャニオタが震撼しました……。

田中 相手の女性は30歳あまり年下の共演者ですから、山口さんが直接電話で誘ってきたら断れるはずがない。力関係が歴然とした相手を選ぶあたりに、自分のストレス解消に女性を利用してもいいという無自覚な差別意識がうかがえます。その裏には、男性社会で子ども扱いされ続けたアイドル男性のいびつな男性性と、テレビ業界に温存された女性への差別意識があるのだと思いますよ。

C子 若い女の方がコントロールしやすくて、男性性を誇示しやすいというのもあるかもしれないよね。でもそもそも、下に見ていたはずの若い女性たちも、もう彼らほど意識が低くないんですよ。かつてより教育水準も上がり、世界から情報を得るようになって、社会平等や社会正義に対する感受性も養われている。

B美 結果的に、彼ら男性アイドルたちよりも、ファンの女性たちのほうが意識が高くなってしまっている。だからこそ炎上が起きているわけで……。

田中 それに、いまや男性アイドルは若い人たちだけのものではないですからね。社会について何も知らない10代の学生だけじゃなくて、社会人としてさまざまな企業で働いているファン、子育てしているファン、海外で勤務した経験のあるファンだっている。

C子 私みたいにジャニーズ、K-POP、LDH、2.5次元とさまざまなジャンルを観ているファンも少なくないですからね。

田中 いろいろな社会経験を重ね、国内外の多様なファン文化と交流することで、アイドルを相対化して評価するようになったファンがいるなかで、前時代的な成功体験をなぞっても意味がない。見た目だけ、歌やダンスだけじゃなくて、知性があり、性差別や人種差別、貧困といった社会問題にも目を向ける感性のある人じゃないと、女性にキャーキャー言われる資格がないというのが世界標準なんですから。

A子 ジャニーズは、タッキーが社長になったことで変わるといいですよね。彼は大人の男が好きだから、アイドルにきちんと、かつ生き様も美しく年を取らせてくれるといいな。

田中 そうですね。アイドルたちがきちんと年齢を重ねるためにも、参考にしてほしい文献をいくつか挙げておきましょう。

『男らしさの終焉』(グレイソン・ペリー/フィルムアート社/2019年)
英国でテレビメディアでパーソナリティを務めるグレイソン・ペリーが、異性装者(トランスヴェスタイト)として、男性という性について考え、新しい時代のジェンダーを模索する。

『足をどかしてくれませんか。——メディアは女たちの声を届けているか』(林香里 他/亜紀書房/2019年)
ジャーナリスト、研究者、エッセイストらが女性の立場から現在の男性中心に作られたメディアの状況が、いかに「ふつう」とズレているのか提言する。

『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/河出書房新社/2017年)
ナイジェリア・イボ民族出身の女性作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェのTEDスピーチの邦訳。ビヨンセやDiorなどが称賛し、全米で注目を集めた。世界27か国で刊行されている。

C子 これを読んで、私たちも勉強します! 先生、今日はありがとうございました!

A子 今日は悩みをぶちまけれてスッキリした! またやりたい! いや、やりたくない!

B美 やりたくないね。やらない未来を祈りましょう。

最終更新:2020/10/13 11:00
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