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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > ノーラン監督『テネット』レビュー
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.602

超難解な内容でも、リピーター効果で大ヒットに ノーラン監督が仕掛けた高等パズル『テネット』

物理学者は罪を知った

『テネット』のキーパーソンを演じたエリザベス・デビッキ。身長190cmを超える規格外のヒロイン。

 銃口へと銃弾が戻る、世にも奇妙な逆行銃の出どころを名もなき男は探ることになる。物理学に詳しい男、ニール(ロバート・パティンソン)が相棒だ。ロシアの新興富豪で、武器商人としての裏の顔を持つアンドレイ・セイター(ケネス・ブラナー)が怪しいことを突き止め、セイターに近づくためにセイターの妻・キャサリン(エリザベス・デビッキ)に接触する。

 ところが重要なミッション中に、未来から逆行してきた何者かが現われ、名もなき男の前に立ちはだかる。格闘シーンも逆回転、車の走行も逆回転という奇妙奇天烈な相手によって、たびたび苦汁を呑まされるはめに陥る。未来からの逆行者は、全身を防護服で覆われ、酸素呼吸器を付けており、正体が不明だ。その素顔は最後になってようやく明かされる。

 本作のタイトルである「Tenet」は、信条・主義を意味する英語。前から読んでも後ろから読んでも同じこの言葉は、主人公たちのミッションのコードネームであり、また本作のテーマにもなっている。

 劇中で「マンハッタン計画」について語るシーンがある。天才物理学者ロバート・オッペンハイマー博士率いる極秘チームによって、1945年7月に世界初となる原子爆弾が開発されたプロジェクトだ。もともとオッペンハイマー博士は宇宙物理学の分野でブラックホールの研究に多大な功績を残していたが、その優れた知能を活かし、原子爆弾の製造を主導した。米国ニューメキシコ州で行われた「トリニティ実験」の成功後、わずか1カ月後には日本の広島と長崎に投下されている。新潟、京都にも投下される予定だった。

 天才物理学者たちが生み出した最新テクノロジーが、20万人以上もの名もなき非戦闘員たちの命を奪い、今も後遺症で苦しむ人たちがいる。戦後、オッペンハイマー博士はその事実を知り、「私の手は血で汚れている」「物理学者は罪を知った」という悔恨の言葉を残している。

 時間を自由に逆行できるようになれば、過去はいくらでも改竄することが可能になる。「運命」という概念も消えてしまうだろう。歴史も運命も意味がない、混沌とした世界になるに違いない。そんな無秩序な世界で、心の支えになるものがあるとすれば、それはその人個人が持つテネット=信条でしかないのではないか。

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