『家、ついて行ってイイですか?』「死にたい」が口癖の父が叶えた、娘との共演ライブ。「死にたいなんてすみません!」
#家、ついて行ってイイですか?
【北千住】「死にたい」と口にする父を変えた、娘との共演ライブ
北千住駅で番組スタッフが声を掛けたのは、ほろ酔い気分でイイ感じのおじさんだった。歯に何か食べ物が付いているが、それをとろうとする素振りさえない。どうでもいいのだろうか?
「だって、いつも死にたい気持ちなんですよ。生きる希望もないよ……。でも、歌は歌いたいけどね」
普段はサラリーマンだというこの男性、プライベートでは「真っ黒毛ぼっくす」なるバンドで音楽活動を続けているらしい。ちなみに、現在は独身。バツ2だそうだ。
自宅マンションに到着すると、予想以上に広くいい部屋だった。死にたい割に、いい家に住んでいる。
「でも、死にたいけど」
街の景色を一望できる部屋の窓から落ちてしまわないか、見ていてこっちが不安になる。しかし、男性には趣味がある。部屋の隅にバンドで制作したCDが置いてあるし、彼の活動は本格的。カメラを前に男性は、ギターを掻き鳴らしながらいい声で自作曲を披露してくれた……って、終電もなくなった夜中なのに! こんな生活で近所に迷惑は掛からないのだろうか?
ちなみに、彼が1番好きなミュージシャンはジョン・レノンである。テンションが上がった男性は、番組のテーマ曲でもあるビートルズの「Let It Be」を口ずさみ始めた。まさかの、セルフレリビー。しかし、何度も言うがもう真夜中だ。
よく考えると、意外にリア充な気がする。いい家に住み、熱中できる趣味も持っている。なのに、なぜそんなに死にたいのか? その理由は、子どもへの思いだ。離婚した前妻が親権を持つ娘とは、もうずっと会っていないという。真っ黒毛ぼっくすの曲「九十九里浜まで」のPVには彼の娘が出演している。見ると、すごく可愛いのだ。はっきり言って美少女。この父親からこの娘が生まれてくるか!? とも思ったが、父と娘の顔はどこか似ていた。男性の顔をよく見ると鼻が高く、案外整っている。目が離せないところもあるし、実は魅力的な男性なのかもしれない。
やはり、死ぬことなんてないと思う。年頃の女の子なら平気で「お父さん、キモい!」と言いそうなものを、父の音楽活動の手助けまでしてくれるのだから。
「抱きしめたいくらい可愛いんだけど、会えないですからね。(理由は)忙しいからじゃない? そんなに嫌がられてないけど、優先度は高くないよね。そりゃ会えないのは悲しいけど、ただ、娘は僕のこと避けてはいないから……たまに会えればいいかな」
「娘はねえ、なぜか……ギターをやってるんだよ。だから、僕は娘とやる(演奏する)っていうのが夢っていうか。あの人と……何か一緒にやりたいね。娘のギターでもいいけど、そんな幸せないじゃん、だって。それが1番の夢かな。それが1番やりたいです」
愛する娘と、かけがえのない夢がある。テレビで父親が「死にたい」と言っていたら、娘は悲しむはずだ。死ぬことなんてない。
実は、この男性の家を訪問したのは2016年6月。それから4年が経った今、番組は改めて彼の現在を取材した。インタホンを押すと、ドアを開けて出てきた男性の顔は4年前と変わらないように見えたが、どこか明るかった。
「元気ですけど、昨日久しぶりにライブで声が枯れてしまいました(笑)」
4年前よりは死にたくなさそうだ。部屋の中も、明らかに以前より整頓されている。この変化には理由がある。男性がダメ元で「やって(演奏して)みない?」と娘に声を掛けたら、なんと「やってもいい」と返答してくれたのだ。
今年7月、男性がギターを、前妻がアコーディオンを弾き、娘がメインヴォーカルを務めるという形式の演奏がライブ配信され、父娘は共演を果たしていた。演奏曲は、父が娘との思い出を綴った「九十九里浜まで」。ライブ映像を見るといまいちハーモニーが揃っていないが、それが逆にいい。娘と共演だなんて、そんなの幸せすぎる。
「娘とたまに会えて曲ができたら、そんな幸せなことってあんの?」
年頃の娘が好きなことを一緒にやってくれるなんて、これ以上の幸せはない。何なら娘に嫌がられるほうが普通だろう。この男性はどう考えても幸せ者である。優しい娘と憎めない父。適度な距離感でこの関係を続けていければいいと思う。
ところで、男性は今も「死にたい」と思っているのだろうか?
「生きていたいよ。死にたいなんて、(机を叩きながら)すみません! ごめんなさいって感じですね。死にたいなんて一切ないです。生きていきたいです」
本当によかった。「死にたい」と言っていた人が幸せになったのだから、娘の力は本当に凄い。
ちなみに、男性の名前は大槻ヒロノリ。実は、彼が活動する「真っ黒毛ぼっくす」は、1985年に結成された知る人ぞ知る人気バンドだ。近年はあがた森魚や曽我部恵一らと共演しつつ、大槻の単独ユニットとして活動を続けている。気になった方は、1度音源を聴いてみてほしい。
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