被害者と加害者の両視点で描く東海テレビの力作 闇サイト事件を劇映画化『おかえり ただいま』
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利恵さんが残した最後のメッセージ
ドキュメンタリードラマである本作の大きな特徴は、齊藤監督をはじめとする製作陣は、みんな東海テレビ報道部の取材スタッフだという点だ。東海テレビはドラマ制作も行っているが、事件直後から裁判を追い、富美子さんへの取材を重ねた報道部のカメラマンや音声マンたちが、そのままドラマパートのスタッフも兼ねている。神田の生い立ちを取材した繁澤かおる記者は、ドラマパートでは助監督を務めた。神田が群発頭痛で苦しんでいたことは、裁判記録や担当弁護士への取材で分かったそうだ。事件を追う報道部の詳細な情報をベースにしている生々しさは、プロの劇映画のスタッフには出せないものではないだろうか。
齊藤「一緒に事件を追ってきた取材スタッフで、撮りたかった。その分、事件に対する思い入れも強いと思うんです。繁澤記者は群馬まで何度も通い、取材拒否に遭いながらも、最終的には神田の父親からコメントを聞き出しています。子どもの頃の神田を知っていたご近所の方を見つけたのも繁澤記者です。『愛情のある人が(神田の)周りにいれば、あんなことは起きなかったのかもしれない』というご近所の方の言葉は、とても痛切に感じました」
拉致された車の中で、利恵さんは銀行口座の暗証番号を教えるように脅された。派遣OLとして働いていた利恵さんは富美子さんと一緒に暮らす新居を購入するため、800万円あまりを預金していた。利恵さんが漫画家になるという夢を諦めて、コツコツと貯めた「しあわせ貯金」だった。極限状態の恐怖の中で、利恵さんは「2960」という数字を神田たちに伝える。だが、その数字は銀行口座の暗証番号ではなかった。結局、神田たちは銀行預金を手に入れることができなかった。
利恵さんと交際していた当時大学院生だった瀧真語さんは、警察からこの数字を聞かされて、語呂合わせだと気づいた。「2960」=にくむわ。新居を購入する資金を犯人たちから守るために利恵さんがとっさに思いついた語呂合わせが、利恵さんが発した最後のメッセージとなった。
だが、語呂合わせだけでなく、利恵さんは多くの温かいメッセージや想いも残していた。利恵さんの思い出に支えられ、富美子さんは前向きに生きている。後半のドキュメンタリーパートでは、利恵さんの残した預金をもとに購入した新居で、富美子さんが友達を招いて明るく過ごす様子を映し出している。
「事件のことは早く忘れて、利恵との楽しかった記憶だけを思い出したい」「でも、みんなには事件のことは忘れてほしくない」という富美子さん。そんな彼女の矛盾する想いに寄り添うような作品に、本作はなっている。劇場用のタイトル『おかえり ただいま』には、利恵さんの名前がアナグラム的に入っていることに気づく。
『おかえり ただいま』
監督・脚本/齊藤潤一 プロデューサー/阿武野勝彦
出演/斉藤由貴、佐津川愛美、浅田美代子、大空眞弓、須賀健太、天野鎮雄、矢崎由紗
配給/東海テレビ放送 9月19日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
c)東海テレビ
https://www.okaeri-tadaima.jp
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