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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.601

被害者と加害者の両視点で描く東海テレビの力作 闇サイト事件を劇映画化『おかえり ただいま』

 

『さよならテレビ』(19)が話題を呼んだ東海テレビの最新劇場公開作『おかえり ただいま』。斉藤由貴が主演。

「事件は早く忘れたいが、みんなには忘れてほしくない」

 矛盾したそんな言葉を、磯谷富美子さんは口にする。シングルマザーとして、ひとり娘の利恵さんを育て上げた富美子さんだが、2007年8月24日の深夜、残業を終えて帰宅中だった利恵さんは3人の男たちに拉致・殺害されてしまう。利恵さん、享年31歳。男たちは携帯電話の「闇の職業安定所」で知り合っていたことから、この事件は「名古屋闇サイト事件」と呼ばれている。明るく、母親想いだった利恵さんが社会の闇に呑み込まれたこの悲惨な事件を風化させないよう、地元の東海テレビが制作したドキュメンタリードラマが『おかえり ただいま』だ。

 本作を企画したのは、東海テレビの齊藤潤一監督。事件直後に富美子さんを取材し、2009年に放送されたドキュメンタリー番組『罪と罰』を制作している。だが、齊藤監督はこの番組を作り終えた後、心残りがあった。娘を殺害した犯人たちに富美子さんは極刑を求め、署名運動を起こし、33万人もの賛同を得た。しかし、番組では死刑制度に反対する別の事件の被害者遺族も取り上げる形で構成した。娘を失った心痛に耐えながら取材に協力してくれた富美子さんに、必ずしも寄り添うことができない内容だった。

 報道部からの定期異動を打診されていた齊藤監督が、気になっていた心残りに向き合ったのが本作だ。富美子さんを斉藤由貴、利恵さんを佐津川愛美が演じることとで、母と娘とのかけがえのない幸せな家庭生活を再現した。利恵さんの生涯は短かったが、とても愛情に満ちていたことが分かる。2018年12月に東海テレビ開局60周年記念ドキュメンタリードラマ『Home 闇サイト事件・娘の贈りもの』として放送された番組を再構成し、9月19日(土)より劇場公開される。

 齊藤監督は、仲代達矢、樹木希林ら名優たちが出演した劇映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』(12)を撮っており、ドラマ演出は今回で2度目となる。是枝裕和監督の法廷サスペンス『三度目の殺人』(17)でも被害者遺族を演じるなど、演技力に定評のある斉藤由貴が主演。犯罪サスペンス『ヒメアノ~ル』(15)で迫真の演技を見せた佐津川愛美が利恵役に。この母娘をいつも温かく見守り続けた伯母・美穂子は、河瀬直美監督作『朝が来る』の公開が10月に控える浅田美代子。ローカル局制作と思えないほど、ベストなキャスティングとなっている。

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