亀山千広『踊る大捜査線』プロデューサーが映画復帰 「ジャズもドラマづくりも大事なのはグルーヴ」
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菅原さんの名言「ジャズというジャンルはない」
ー学生時代は年間400本も劇場で映画を観るほどの映画青年だった亀山プロデューサーですが、ジャズもお好きだったんですね。
僕が上京して、早稲田大学に入ったのが1976年。田舎者が手っ取り早くインテリぶれるのがジャズだったんです(笑)。当時の早稲田は名画座だけでなく、ジャズ喫茶や中古のレコード屋も多かった。バイトで稼いだお金で、秋葉原のオーディオ店「SANSUI」で大きなスピーカーを買って、電車で下宿までかついで帰り、一枚500円の中古レコードを繰り返し聴いていました。昼は名画座で安く映画を観て、夜は下宿に帰ってビル・エヴァンスやマイルス・デイヴィスを聴く。それとキャンディーズも。そんな時代だったんです。菅原さんも中古レコードを下宿で一日中聴いて、自分の道を決めたそうです。
ー矢口史靖監督の『スウィングガールズ』(04)も、ジャズがモチーフでした。
あれは作っていて、とても楽しい作品でした。ジャズにうるさい人からは「ジャズじゃない」なんて厳しいことも言われましたが、ブラスバンドのお話なんであれでいいんですよ。「ベイシー」に行くようになったのも、そのくらいの頃でした。僕が初めて「ベイシー」の扉を開けると、それまで音楽雑誌などで紹介されていた菅原さんこだわりのオーディオ設備が迫ってくるように感じました。そのとき流れていたのは、ジョン・コルトレーン。僕がコルトレーンを苦手なのを知っていて、菅原さんはあえて流していたようです。僕がコルトレーンを初めて聴いたのは『至上の愛』だったんですが、それ以来コルトレーンはダメだった。でも、「ベイシー」でコルトレーンを聴くと、全然違うんです。菅原さんいわく「最初に選んだ一枚がよくなかった」ということだそうです。以来、菅原さんは僕のジャズの師匠であり、オーディオの師匠でもあるんです。
ー映画『ジャズ喫茶ベイシー』の音も、すごく鮮明で驚きました。
そこは星野監督のこだわりですね。元になる原盤のレコードがあるのに、わざわざ一関の「ベイシー」まで機材を持って、店内で流れる音を録音しているんです。しかも、アナログで録音して、ダイレクトカッティングまでしている。多分、この映画の大事なところは、そういう作り手のこだわりだと思うんです。星野監督にとって、菅原さんは人生の師匠でもあるわけです。被写体に対する畏敬の念を感じさせました。
ーカウント・ベイシーをはじめ、「ベイシー」を訪れたゲストの顔ぶれもすごいけれど、菅原さんが語る「ジャズというジャンルはない ジャズな人がいるだけだ」などの台詞が胸に刺さります。
僕の自宅のオーディオも真空管アンプです。もともとは門前仲町のジャズ喫茶「タカノ」にあったものが岩手のオーディオ店に流れ、そのことを菅原さんから聞き、買い付けたんです。スピーカーは「これが合うよ」と菅原さんが持っていたものを譲っていただきました。本当にいい音です。以来、オーディオ熱も再燃しました。オーディオに不具合がある場合、菅原さんに相談するんですが、「接点を確かめろ」とか基本的な答えが返ってくる。それって、ジャズにも言えることだし、人と人との関係にも言えることですよね。ボタンのちょっとしたかけ違いで、人間関係がうまく行かなくなることもある。そんなときは基本に立ち帰れと。ジャズ談義やオーディオ談議にかこつけてますが、菅原さんみたいな人生経験が豊富な人と話していると、いろいろと自分の人生に返ってくるものがあるんです。若い人にはジャズ喫茶という文化があることを知ってほしいし、人生にもがいている大人にもぜひ観てほしいですね。
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