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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.600

“男らしさ女らしさ”という生き地獄からの解放! 原一男監督のドキュメンタリー砲『れいわ一揆』

原一男監督が追い続けたテーマと作風の変化

「子どもたちを守ろう」と訴える安冨氏。東京の井の頭公園には子連れの家族が集まった。

 安冨氏の言動のすべてに共感できるわけではない。「マイケル・ジャクソンは子どもたちを守ろうとした」などの言葉には、賛同しかねる部分もある。だが、現代社会に生きる人たちみんなが感じている息苦しさの正体を、安冨氏が分かりやすく暴いてみせたのは確かだ。

 安冨氏の考え方に影響を受けたのだろうか。原一男監督の作風も、変化が生じているように感じる。原監督はこれまで『ゆきゆきて神軍』や『全身小説家』など、原監督にとっての父親世代の被写体をカメラで追ってきた。前作『ニッポン国VS泉南石綿村』(18)にも、そう思わせる場面があった。1945年生まれの原監督は、父親を戦争で失っており、父親の記憶を持っていない。原監督が撮る作品には、父性的存在を追い求めるという裏テーマが潜んでいる。

 だが、安冨氏は「男らしさ」や「父親らしさ」を脱ぎ捨てることで、自分らしさを手に入れた人物だ。原監督も安冨氏の言動に触れることで、「幻の父親」を追い求めるという従来の作風から解き放たれたのではないだろうか。選挙が始まってからは、安冨氏をことさら煽ることもなく、心の赴くままにカメラを回しているように思う。上映時間が4時間8分あるのも、「映画の上映時間は2時間の枠で収めるべき」という慣習からの脱却なのだろう。観客動員数や興収結果といった映画界でこれまでに使われてきた物差しでは測れないものが、この映画には託されている。

 選挙の結果はご存知のとおり、「れいわ新選組」は2名の議員を参議院に送り込むことになったが、安冨氏が当選することはなかった。全国を行脚して回った安冨氏の選挙後の姿を、最後にカメラは映す。久しぶりに乗馬クラブを訪ねた安冨氏は馬に乗り、森の中を軽やかに駆け抜ける。「鳥になって、飛んでいるみたい」。社会の常識や枠組みに囚われずに生きることの楽しさを安冨氏は伝え、この映画は静かに終わりを告げる。

『れいわ一揆』
監督/原一男 製作/島野千尋 撮影/原一男、島野千尋、岸建太朗ほか
配給/風狂映画舎 9月11日(金)より渋谷アップリンクほか全国順次公開
(c)風狂映画舎
http://docudocu.jp/reiwa

最終更新:2020/09/11 06:00
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