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日刊サイゾー的書籍インタビュー

マインドフルネスやアニメ聖地巡礼は“宗教”か? 寺社も集客を狙うスピリチュアル市場のサバイバル

コロナ禍でマーケットは縮小してしまうのか?

――観光資源化することによって延命、ないし新規顧客を獲得してきた宗教やスピリチュアル・マーケットが、コロナ禍によって衰退してしまう可能性もありますよね。新しい動きや、山中先生が注目している現象はありますか?

山中 宗教は共同体やつながりが大事ですから「オンラインでもつながれる」とやってはいるものの、根本的な解決にはなっていない。目下、宗教界・観光界全体でどう乗り越えていくかを模索しているところです。ただ、この状況がワクチンなりが出てくることで数年かけて徐々に変わっていけば、今の「消費したくてしょうがない」という欲望が爆発して、コロナ禍以前より豪華な消費につながる可能性もある。

 私がコロナ禍で考えたのは日本人の同調性の問題です。マスクをしない人は敵扱い、感染したら出ていけという強い圧力や差別が目立つ。コロナ禍以前はインバウンドの観光客が非常に増え、多様なバックグラウンドの人が日本に来て、日本人もそこから宗教を学び、異質なものが混ざっていくだろう、その中で例えばハラル・フードをはじめ、さまざまな問題が浮き彫りになる……と思っていました。ところが、感染防止のために鎖国状態に陥ったときに、日本人の閉鎖性、多様性に対する不寛容さが顕著になった。これには憂慮しています。

 それに対して宗教側は「寛容」というメッセージを強く出す向きもある一方、「我々だけが宗教的真理を獲得している」と考える教団は、より閉鎖的に動いている。もともと近代社会は寛容をひとつの原理として展開してきたけれども、例えばアメリカのキリスト教のファンダメンタリスト(原理主義者)たちは近代的な価値観が宗教を相対化し、世俗化を生んでいると主張し、異質なものを否定することでその存在をアピールしてきたわけです。それは、彼らがトランプ大統領を全面的に支持していることからもわかります。

 全体的に見れば、宗教集団にとっても今回のコロナ禍は大きな出来事です。その中で教団は、社会はどのように動くか――。今回の論集ではスピリチュアル・マーケットという軽く、薄く、浅いものをとらえるべきだと言いましたが、宗教にかかわる問題が軽くも浅くもないことは百も承知です。私としては、論集で提起した議論がどの程度の射程を持つのかさらに研究を深めていくと同時に、同調性と寛容をめぐる問題にも注視していきたいと考えているところです。

●プロフィール
山中弘(やまなか・ひろし)
1953年、東京都生まれ。筑波大学特命教授(名誉教授)。専門は宗教学、宗教社会学。イギリスを中心とした欧米の宗教史から、アニメ、聖地、巡礼ツーリズムなど、現代社会の宗教変容を論ずる現代宗教論まで、幅広い領域を対象とした研究を行っている。編著に『宗教とツーリズム 聖なるものの変容と持続』(世界思想社)など。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2020/09/10 20:08
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