あのスティーブ・ジョブズが崇拝した! ヒッピー時代にアメリカへ渡った禅僧の驚愕人生と素顔
#アメリカ #スティーブ・ジョブズ
利己主義の行きすぎた現代、利他に生きた弘文
――本の取材を通じて、もともとはご関心のなかった禅や仏教に対して抱く印象は変わりましたか?
柳田 変わりましたね。兄が亡くなったことが大きかった。それまでは仏教の本を読んでも今ひとつわからなかったのが身に沁みるようになって、救われたところもありました。今も週に1回は坐禅会に参加しています。アメリカ人たちとZoomでね(笑)。
――今回のコロナもそうですが、変化の激しい世の中では「執着を捨てる」という仏教の教えは非常に実践的なものだと感じます。
柳田 「仏教は釈迦があきらめた世界だ」という言い方があるんだけれども、「一切皆苦(いっさいかいく)」――生きている限り苦である、その認識ですよね。釈迦は「では、なぜ苦なのか?」ということを分析して、「苦を少しでもやわらげるには」ということを考えた。
こういう時代に「前はよかった」と執着すると、キツいと思います。すべては流転していく、前には戻らないのだと受け入れて、初めて「じゃあ、どうしようか」と考えられるんじゃないでしょうか。
――これから『宿無し弘文』を読む人に向けて、ひと言お願いします。
柳田 コロナ禍以前から、人類が岐路に立っていると感じていたんですね。新自由主義、自国優先、自己責任、稼いだ者勝ち……こういった価値観がもたらした負の面が大きくなりすぎた。かつては、人々はもっとお互いに助け合ったと思うんです。でも、今は分断されている。弘文さんは利他に生きた人でした。ですから、利他ということを考えるきっかけになってもらえたらと思っています。といっても、難しく考えずに、謎めいたお坊さんを題材にしたミステリーを読むように楽しんでほしいですね。
(プロフィール)
柳田由紀子(やなぎだ・ゆきこ)
作家、ジャーナリスト。1963年、東京生まれ。85年、早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業後、新潮社入社。月刊「03」「SINRA」「芸術新潮」の編集に携わる。98年、スタンフォード大学ほかでジャーナリズムを学ぶ。2001年、渡米。現在、アメリカ人の夫とロサンゼルス郊外に暮らす。著書に『アメリカン・スーパー・ダイエット』(文藝春秋)、『太平洋を渡った日本建築』(NTT出版)、訳書にコミック『ゼン・オブ・スティーブ・ジョブズ』(集英社インターナショナル)など。
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