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スタンダップコメディを通して見えてくるアメリカの社会【9】

クリーンな芸人も思わず「フ○ック!」と叫ぶ トランプ大統領が怒らせたコメディアン

「クリーン」なジム・ガフィガン、ついに吠えた!

 ニューノーマルの時代、お茶の間と地続きのメディアを通して家族でも安心して楽しめる”害“の少ない”クリーン・コメディ“の需要が、急激に高まりを見せたのだ。これによりジム・ガフィガンの作品の意義は、今後もますます確かなものになっていくだろう。人種や政治的な価値観など、大きく分断が進むアメリカにおいて彼の作品はそのどちらにも受け入れられる可能性がある。彼自身も、それゆえに全米でのツアー公演という偉業を成し遂げ、人気と地位を築き上げてきたはずだ。

 そんなジム・ガフィガンが先週ついに吠えた。これまで一貫して政治に言及してこなかった彼が、突如自身のツイッターでトランプ大統領への痛烈な批判を投稿したのだ。それは8月27日、共和党の全国大会最終日、トランプの大統領選への指名演説を受けてのことだった。

「このツイートが俺の道徳的美徳を世間にアピールしていると思われようが、どうでもいいしクソ食らえだけど(F○ckという言葉を用いて)、俺たちはいいかげん目覚めなきゃならない。トランプはマジでペテン師だから」

 当然これまで政治に沈黙を貫いてきたベテランコメディアンの発言をメディアはこぞって取り上げ、それだけに批判も賛同も巻き起こった。”クリーン・コメディアン“の名前を欲しいままにしていたジム・ガフィガンは、ここ数日で一気に「ポリティカルなコメディアン」へと変貌を遂げた。おそらくこのイメージの激変によって失ったもの、今後失いゆくものは計り知れないだろう。しかし”クリーン“なジム・ガフィガンですら、もはや”クリーン“でいられなくなった今のアメリカに私たちは今一度立ち止まり、目覚めることが求められているのかもしれない。

 大統領選まで2カ月を切っている。

<ジム・ガフィガン>
1966年、イリノイ州出身。これまでグラミー賞で5度の最優秀コメディアルバム部門にノミネートされたほか、テレビや映画にも多数出演。クリーンなコメディアンとして全世界でツアーを敢行。コンスタントに自身のスタンダップコメディのスペシャルも制作し大きな影響力を持つ。

<『世界は驚きに満ちている』(2020)>
ジム・ガフィガンのAmazon Primeでのスペシャル最新作にして第8作目。昨年行ったワールドツアーの様子を収めた2本立てでカナダとスペインで収録。ジム自身が体験したエピソードやご当地ネタも満載で家族で楽しめる一本。

Saku Yanagawa(コメディアン)

アメリカ、シカゴを拠点に活動するスタンダップコメディアン。これまでヨーロッパ、アフリカなど10カ国以上で公演を行う。シアトルやボストン、ロサンゼルスのコメディ大会に出場し、日本人初の入賞を果たしたほか、全米でヘッドライナーとしてツアー公演。日本ではフジロックにも出演。2021年フォーブス・アジアの選ぶ「世界を変える30歳以下の30人」に選出。アメリカの新聞で“Rising Star of Comedy”と称される。大阪大学文学部、演劇学・音楽学専修卒業。自著『Get Up Stand Up! たたかうために立ち上がれ!』(産業編集センター)が発売中。

Instagram:@saku_yanagawa

【Saku YanagawaのYouTubeチャンネル】

さくやながわ

最終更新:2023/02/08 13:21
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