大塚愛ホラーの処女作は案の定駄作 「小説なめんじゃねぇよ、大塚」の結末
#小説 #大塚愛
大塚愛は小説を描けたのか?
また、恐怖におののくさゆりが母親に携帯電話で連絡するシーンがあるのだが、ものの数秒で「いきなり切れてしまった」という描写があり、その原因は「しまった。充電器を忘れてきてしまった」とのこと。今どきの小学4年生の女子が宿泊を伴う旅行を計画した際、なにより真っ先に持参チェックをするのが携帯の充電器(もしくはバッテリー)だろう。物語の冒頭で「人形とか絵本は卒業(中略)欲しいものはもっぱらメイク道具やアクセサリー」と説明されているだけに、間違いなく充電器は必要不可欠な女子であることがうかがえる。それにもかかわらず、こうした恐怖と直面したときにだけ、「充電器を忘れてしまった!」は、さすがに古典的すぎるだろう。
とはいえ、短時間で書き上げたゆえの構築密度、伏線回収の甘さは目をつぶろう。
全体を読むと、これまで夫の不倫など、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきた大塚愛だけに、人間を精神的に追い詰める戦慄のホラー表現が散見されるかと思ったが、「!」マークを多用していてどちらかというと肉体的ホラーで追い詰められるような、登場人物のリアクションに寄った作品となっていた(さゆりが小学4年生という設定なので、それはそれでほほえましいリアクションなのかもしれないが)。
とはいえ、ホラー小説という枠を外して文体のみに目を向けてみると、大塚がシンガー・ソングライターとして歌っていても違和感のない描写があったり、「マリーのビスケットを食べながら」といった言葉のチョイスに彼女らしさも垣間見られ、楽曲のファンとしては収穫が多いのも確か(大塚が17年にリリースしたアルバム『LOVE HONEY』に収録された「QueeN」に「ビスケットに毒」という歌詞があり、そういった相互作用も楽しめる)。
ただし、大塚は『小説現代』のインタビューで「書きたいものはポツポツあります(中略)『小説なめんじゃねぇよ、大塚』みたいになったらしばらく頭を冷やします(笑)」と自嘲しながら語っているが、読者が彼女のホラーにもとめているのは、まさに今回のタイトルにあるような「開けちゃいけない大塚愛の内面」だったのでないだろうか?
「笑顔咲ク 君とつながっていたい人でしょ?」という「さくらんぼ」の呪縛から解き放たれる“次怪作”を心待ちにしたい。
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