「9月入学」の実施に必要な法律改正は33本! 安倍首相の発言で立ち消えた議論の行方は?
#安倍晋三 #9月入学
新型コロナウイルスの感染拡大防止のための臨時休校で急浮上した「9月入学」。安倍晋三首相の「困難」発言で議論は一気に終息したが、その後も文部科学省は9月入学の課題整理を続けている。
2020年2月27日、安倍首相は唐突に全国の小中高等学校などに臨時休業を要請した。その後、臨時休校が長期化するに伴い、学業の遅れに対する懸念などと共に、その対応策として「9月入学への移行」の議論が急速に盛り上がった。
4月末には小池百合子・東京都知事、村井嘉浩宮城県知事など複数の知事が9月入学への移行へ賛意を表明、全国知事会も「政府におかれては国民的な骨太の議論を行うこと」こと提言し、政府も検討に乗り出した。
自由民主党では「秋季入学制度検討ワーキングチーム」、公明党では「9月入学含めた子どもの学びの確保支援検討プロジェクトチーム」、国民民主党では「9月入学検討ワーキングチーム」といったように、各党とも検討組織を立ち上げ、9月入学についての検討を開始した。
半面、日本PTA全国協議会や全国連合小学校長会、日本教育学会などの教育関係者の団体からは“新型コロナ対策として”の9月入学への移行に慎重な意見が多く出されていた。加えて、5月14日から緊急事態宣言が順次解除され、学校再開の動きが広がると9月入学の導入に対する機運は急速に萎んでいった。
そして、安倍首相が6月2日、9月入学について「法改正などを伴う形での導入は困難」との見解を示したことで、9月入学の導入機運は完全に消滅している。
さて、 “大山鳴動して鼠一匹”という結果に終わった今回の9月入学の導入だが、これまでにも何度か検討されてきた。G7(先進7カ国)で9月(秋)入学でないのは、日本だけ、G20(主要20カ国・地域)でも半数は9月 (秋)入学となっている。
確かに、9月入学への移行は「先進国」や「グローバリズム」という観点から強く意識されよう。事実、9月入学への移行によるメリットとして挙げられるものの多くは、例えば海外の大学への入学・留学といったものだ。
日本の学校教育法施行規則では、小学校の入学を4月と規定しており、これに倣って幼稚園、中学校、高等学校も4月入学としている。一方で、大学については、同規則で「大学の学年の始期および終期は、学長が定める」としており、さらに、「大学は、前項に規定する学年の途中においても、学期の区分に従い、学生を入学させおよび卒業させることができる」と定められている。
文科省では、9月入学の機運が終息してしまった後も、関係省庁とともに9月入学の課題の整理を行ってきた。その結果、改正の必要がある法律が33本に上ることを指摘している。
その内訳は以下の通りだ。
人事院関係:3本(一般職給与法、国家公務員災害補償法など)
内閣府関係:2本(子ども・子育て支援法など)
総務省関係:4本(地方公務員等共済組合法、地方公務員災害補償法など)
法務省関係:3本(司法試験法、裁判所法など)
財務省関係:2本(国家公務員共済組合法など)
文科省関係:7本(学校教育法、義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律など)
厚労省関係:12本(国民年金法、生活保護法、労災保険法、労働基準法など)
これらの多くは、国の制度などに関連するものが中心となっており、これ以外にも改正を必要とする法律が多く見込まれる。また、例えば多くの企業が4月に新年度入りするのに対して、新入社員が9月入社となる点など、社会との関係で見直しが必要なものは多岐に渡る。
これだけの負担、社会的なコストをかけて9月入学へ移行するには、それだけ大きなメリットが必要となろう。前述のとおり高等学校までは4月入学だが、大学については各大学が独自に決めることができるようになっている。大学のあり方・運営方法にもっと柔軟性を持たせることで、9月入学への対応を考えていく方が現実的ではないだろうか。
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