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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 大林監督の遺作『海辺の映画館』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.595

故人と対話するための装置。大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館』、いまおか監督『れいこいるか』

映画を見守る“神さま”のような存在

『海辺の映画館』より。映画初出演となる吉田玲が、物語のキーパーソンとなる少女・希子を演じている。

 伊智子の実家の酒屋は、行き場のない人たちの憩いの場となっている。ちょっと頭の弱そうな男「ヒロシさん」もたびたびやってくる。家族の喪失というシビアな物語だが、「ヒロシさん」の存在が作品にユーモラスさを与え、傷ついた人たちを受け止める街の温かさも感じさせる。

 この男「ヒロシさん」は、いまおか監督の自死を遂げた大学時代の先輩をモデルにしたコメディ映画『川下さんは何度もやってくる』(14)に主演した怪優・佐藤宏。『たまもの 』でボウリングの球を演じた人といえば、「あっ、あの顔を黒塗りしていた人!」と思い出すのではないだろうか。いかおか監督に尋ねたところ、専業の俳優ではなく、普段は警備員の仕事をしているとのこと。プロの俳優には出せない、独特な味のある演技を見せ、いまおか作品を見守る“神さま”のような存在となっている。

 大林監督のポップでシュールな遺作となった『海辺の映画館』は、現実と虚構世界を行き交う構造がSF映画『スローターハウス5』(72)を彷彿させる。また、いまおか監督の念願作『れいこいるか』は、トラブル続きの小説家を主人公にした『ガープの世界』(82)を思わせる。どちらも、ジョージ・ロイ・ヒル監督の作品だ。

 ハリウッドの名匠が残した代表作、「映像の魔術師」と称された大林監督の遺作、ピンク映画界の鬼才・いまおか監督の自主作品は、どれも喪失感を抱えた主人公たちが死者と対話しながら、生きることを肯定していくことで共通している。

 映画とは過ぎ去った大切な時間を記憶するための装置であり、また物語とは今は亡き人たちをフィクション上の世界に蘇らせる手段でもある。『海辺の映画館』と『れいこいるか』は、とても映画らしい映画だと言えるだろう。

『海辺の映画館 キネマの玉手箱』
監督・脚本・編集/大林宣彦 脚本/内藤忠司、小中和哉 撮影監督・編集・合成/三本木久城 
出演/厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子
配給/アスミック・エース PG12 7月31日より全国公開中
(c)2020「海辺の映画館 キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
https://umibenoeigakan.jp


『れいこいるか』

監督/いまおかしんじ 脚本/佐藤稔 撮影/鈴木一博 音楽/下社敦郎
出演/武田暁、河屋秀俊、豊田博臣、美村多栄、時光陸、田辺泰信、上西雄大、上野伸弥、佐藤宏
配給/ブロードウェイ 8月8日(土)より新宿K’s cinema、大阪シネヌーヴォ、神戸元町映画館ほか全国順次公開
(c)国映株式会社
https://reikoiruka.net-broadway.com

最終更新:2020/08/07 09:00
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