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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 大林監督の遺作『海辺の映画館』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.595

故人と対話するための装置。大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館』、いまおか監督『れいこいるか』

“喪失感”をテーマに撮り続ける、いまおかしんじ監督

いまおかしんじ監督の新作『れいこいるか』。関西在住の俳優たちを起用し、1年がかりで神戸ロケを行った。

 亡くなった人への想いをテーマにした新作映画として、いまおかしんじ監督の『れいこいるか』も紹介したい。いまおか監督は主にピンク映画界で活躍し、林由美香主演作『たまもの 』(04)はカルトな名作として高く評価されている。さまざまなタイプの映画を撮っているいまおか監督だが、代表作を振り返ると「喪失感」をテーマにした作品が多いことに気づく。デビュー作『彗星まち』(95)は青春時代の終焉を、『たまもの 』は最愛の人との愛おしい日々を弔う物語だった。

 成人館ではなく、一般館で公開される『れいこいるか』は1995年に起きた阪神淡路大震災直後から、いまおか監督が企画を温めてきた自主映画だ。震災で子どもを亡くした元夫婦の20年以上にわたる年代記となっている。

 売れない小説家の太助(河屋秀俊)と妻の伊智子(武田暁)の間には、3歳になる娘・れいこがいる。太助はいつまで経っても売れる気配はなく、伊智子は他の男とラブホで浮気していた。そんな時、震災が起き、れいこは崩壊した安アパートの中で亡くなってしまう。太助と伊智子は娘の死を受け入れられずに離婚するが、その後も花見の席やれいこと一緒に出掛けた思い出の場所で、たびたび遭遇することになる。

 離婚と結婚を繰り返す伊智子は、やがて視力を失ってしまう。太助は傷害事件を起こし、刑務所送りとなる。2人はお互いに、娘を死なせてしまった自分への罰だと受け止める。痛みを感じながら、生き続けることになる太助と伊智子。つらい体験が原因で別れたものの、お互いのつらさをいちばん理解しているのもこの2人だった。いくつかの偶然が重なり合い、2人は“れいこ”の面影にもう一度だけ触れることが許される。

 元夫婦の付かず離れずの関係性が、昔ながらの風情を残す長田地区や三宮といった神戸の街の景観を織り込みながら描かれていく。『彗星まち』『たまもの 』も撮った鈴木一博のカメラワークも印象に残る。

 ピンク映画は3日間、単館系映画は1週間程度で撮ってきたいまおか監督だが、自主映画『れいこいるか』はじっくりと1年間の撮影期間を要し、神戸ロケを重ねている。四季折々の景色の中、元夫婦の葛藤と再生の物語が綴られていく。

 今までになく、じっくりと撮影期間を費やすことができたのには理由があった。いまおか監督が長年拠点としてきた「国映」は近年は新作を製作しておらず、「大蔵映画」とは脚本参加作『ハレンチ君主といんびな休日』(18)がお蔵入りして以降、“出禁”状態が続いているそうだ。「これからどうしようか」と思いあぐねていた矢先、「好きなものを撮ってみては」という出資者が現れ、ずっと映画化できずにいた『れいこいるか』の企画が動き出すことになった。

「生きていると、思いがけないことが起きるものです」といまおか監督は笑ってみせた。

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