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「慰安婦問題」に「徴用工問題」いったいいつまで続くのか…協定や合意が破棄される日韓関係この先

「慰安婦問題」に「徴用工問題」いったいいつまで続くのか…協定や合意が破棄される日韓関係この先の画像1
(写真/NurPhoto「GettyImages」より)

 韓国で慰安婦像の前でひざまずき謝罪する安倍晋三首相を模した像が設置されたことが、物議を醸している。日韓関係の“火種”としてくすぶり続ける「慰安婦問題」をまとめてみてみよう。

「永遠の贖罪」と題されたこの像は韓国北東部の江原道平昌にある「韓国自生植物園」の園内に設置された。制作した彫刻家は、「日本がぬかずき、われわれがいいと言うまで贖罪して初めて許しが考えられるということを形にした。安倍首相が植民地支配や慰安婦問題への謝罪を避け、逆の行動をしていることを刻み、反省を促す作品だ」と語ったと複数の韓国メディアが報じている。同園の園長も当初は、「贖罪の対象を形にする必要があり、少女像(慰安婦像)と安倍首相で象徴させた」と説明していた。

 しかし、この像をめぐっては菅義偉官房長官が記者会見で、「国際儀礼上、許されない。韓国側に対し、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認した日韓合意の着実な実施を引き続き強く求めていく」と述べ、韓国国内でも「外交的に非礼だ」といった批判が出たことで園長は、「安倍首相を特定してつくったものではなく、謝罪する立場にあるすべての男性を象徴したものだ。少女の父親である可能性もある」と前言を翻している。

 そもそも「慰安婦問題」は1990年代の初め、韓国の女性団体などが日本政府に対して、慰安婦問題の真相究明と謝罪、補償を求めたことから激化した。1993 年には当時の河野洋平官房長官が談話(いわゆる河野談話)を発表し、謝罪と反省を表明した。

 1995 年には元慰安婦に対する償いの事業などを行うことを目的に設立された財団「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」の事業へ日本政府が協力、慰安婦問題は沈静化の様相を見せた。

 だが2011年8月30日に韓国の憲法裁判所が「元慰安婦への補償について韓国政府が日本側と解決に向けた努力をしないことは違憲」との判断をしたことで再燃。同年12月14日、元慰安婦を支援する市民団体「挺身隊問題対策協議会」はデモが1000回に達したことを記念し、ソウルの日本大使館前の公道に慰安婦を象徴する少女像を設置した。

 これに対して日本政府は、少女像の設置が日韓関係に好ましくない影響を与え、「外交関係に関するウィーン条約」の「公館の威厳の侵害等」に抵触するとし、少女像の撤去を何度も申し入れている。

 慰安婦問題が民間の活動から政治レベルに波及したのは、2012年8月10日に当時の李明博大統領が竹島に上陸したことだった。李大統領は竹島上陸の理由を、「首脳会談で野田佳彦首相(当時)が慰安婦問題の解決に消極的で、逆に日本大使館前の少女像の撤去を求めたため」とした。

 2012年12月には第2次安倍晋三内閣に、2013 年2月には朴槿恵政権に日韓両国で政権が交代する。朴政権は日本に対して慰安婦問題解決を強く要求し、国連などの場で韓国による日本に対する批判が続く。

 2015年12月28日、いわゆる日韓合意が成立し、慰安婦問題は解決に向けて大きく進展する。

 日刊両外相の共同発表における日韓合意の内容は以下の通り。

<日本発表>
①安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。

②韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しのための事業を行う。

③②の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

<韓国発表>
①日本政府が表明した②の措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。

②韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する。

③韓国政府は、日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。

 つまり、この日韓合意をもって、両国は慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認した。

 その後、日本政府は日韓合意の財団「和解・癒し財団」へ10億円を拠出、2016年9月7日の日韓首脳会談で安倍首相は朴大統領に対して、少女像の問題も含めた合意の履行を求めるが、韓国政府は少女像撤去の問題について、「国民世論等を見ながら政府も動くため、今の状況下で政府が乗り出してこの問題を推進する考えはない」との消極的な姿勢を示した。

 そして、12月30日には韓国の市民団体によって釜山の日本総領事館の前に少女像が設置される。日韓合意における「少女像に対し、韓国政府が適切に解決されるよう努力する」という内容とは裏腹に事態は“悪化”した。

 2017年5月10日には韓国で政権交代が起き、日韓合意に批判的な姿勢の文在寅大統領による政権が発足した。文大統領はその翌月、米紙ワシントンポストのインタビューで、「日本に対し慰安婦問題について法的責任を取ることと公式謝罪を行うことを要求する」と述べた。

 7月31日には韓国で日韓合意の経緯と内容を検討する「韓日日本軍慰安婦被害者問題合意検討タスクフォース」が発足、12月27日に報告書を発表した。この報告書を受け、文大統領は、「日韓合意には手続的にも内容的にも重大な欠陥があり、日韓合意により、慰安婦問題を解決することはできない」と発表する。

 ただし、「和解・癒し財団」及び同財団の事業の点検作業により、47名の慰安婦被害者のうち、34名が現金の支給を受け取っていることも明らかになった。

 年が明けた2018年1月9日、韓国政府は、「日韓合意は両国間の公式の合意だったという事実は否定できない」としながらも、「同合意では慰安婦問題の真の解決はできないとし、日本側が自ら、国際的、普遍的な基準に基づいて、被害者の名誉、尊厳回復と心の傷の癒しのための努力を継続することを求める」新たな方針を打ちだした。これは事実上、日韓合意を一方的に破棄したものと解釈できる。

 そして、2018年10月30日に韓国大法院(最高裁判所)が、第2次世界大戦中に日本の企業に「強制徴用」されたと主張する韓国人が、新日鉄住金(現・日本製鉄)を被告とした訴訟で、同社に対し慰謝料の支払を命じる判決を出した。

 これにより、日韓関係は「慰安婦問題」に加えて、新たに「徴用工問題」を抱えることになった。

 以上が「慰安婦問題」を中心として日韓関係の動きだが、ここで重要な指摘をしておく。日本政府は一貫して日韓間の財産・請求権に関する問題は、1965年の「日韓請求権・経済協力協定」で最終的かつ完全に解決済みとの姿勢を保っている。

 この協力協定は、両国の国交正常化のための「日韓基本条約」とともに結ばれ、日本が韓国に5億ドルの経済支援を行うことで、両国及び国民の間での請求権を完全かつ最終的に解決したとする内容だ。従って、戦時中などに生じた事由に基づく請求権は“いかなる主張”もすることができないことになっている。

 実は、韓国政府は条約内容を長らく国民に明らかにしていなかった。しかし、2009年に徴用工の未払い賃金等も協力協定に含まれていたと公式に弁明している。それでも、韓国では、協力協定に請求権の具体的な内容が記されていないことなどから、慰安婦などは協力協定の対象外との主張が出ている。

 さて、日本政府は戦後処理となる「日韓請求権・経済協力協定」と慰安婦問題における「日韓合意」を韓国側により事実上、一方的に破棄されている。河野官房長官と安倍首相の2度にわたり、正式な謝罪を行った。2017年末までに慰安婦被害者と言われる34名が現金の支給を受けている。それでも韓国では少女像(慰安婦像)を撤去するどころか、設置数が増加している。加えて、新たに「徴用工問題」まで発生した。

 韓国では、政権が慰安婦問題などで日本を攻撃することで人気獲得を図るのが常套手段だ。国内での“政争の具”に使われ、その度に慰安婦問題の解決への道は“振り出しに戻る”が繰り返される。

 国際条約と国内法ではどちらに優先権があるのかについてはさまざまな学説があり、解釈は分かれるのも確かだ。しかし、慰安婦という同じ問題が韓国で政権が代わる毎に、協定や合意が一方的に破棄されるのでは、両国が問題解決で合意に達することはできない。

 もはや、韓国に対しては特別な友好国という想いを捨て、単なる隣国として付き合い、国際司法裁判所など第三者機関を使って粛々と対応するしかないのかもしれない。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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最終更新:2020/08/04 08:00
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