上映時間8時間半のドキュメンタリー『死霊魂』中国共産党“飢餓収容所”サバイバーたちの証言
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街や職場をよりよくするための意見を、みんな率直に語ってほしい。毛沢東主席時代の中華人民共和国では、理想の国づくりのための「百家争鳴」キャンペーンが行なわれた。中国共産党への批判も含む自由な発言が認められていたが、周囲に勧められて発言した者には過酷な運命が待っていた。1956年に中国共産党が始めた「百家争鳴」キャンペーンは、翌年になって方向転換。発言者たちは反体制派=右派として弾圧され、再教育収容所送りとなった。
さらに毛沢東の無謀な農業政策が原因で、中国史上最大の飢饉が発生。収容所送りとなった人々は、1日わずか250gの雑穀しか与えられず、次々と餓死する。上映時間8時間26分となるドキュメンタリー映画『死霊魂』は、特に厳しい環境にあったゴビ砂漠の夾辺溝収容所サバイバーたちの肉声を集めた慟哭の映像記録となっている。
本作を12年がかりで撮り上げたのは、1967年中国西安市生まれのワン・ビン(王兵)監督。上映時間9時間をこえるデビュー作『鉄西区』(03)は、山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞を受賞。その後も、中国の地域格差の実情を映し出した『三姉妹 雲南の子』(12)、精神病院の中にカメラを入れた『収容病棟』(13)、出稼ぎ労働者たちの厳しい暮らしを追った『苦い銭』(16)などの問題作を海外で公開している。
ドキュメンタリー映画を撮り続けているワン・ビン監督だが、過去に一度だけ劇映画を撮っている。「百家争鳴」後に収容所送りになった人々の悲惨な収容生活をドラマ化した『無言歌』(10)だ。再現された収容所は、荒地に掘られた穴蔵同然の粗末な施設だった。また、夫と引き離された妻側の視点から描いたドキュメンタリー映画『鳳鳴 中国の記憶』(07)も撮っている。収容所送りとなった本人だけでなく、家族も辛酸を舐め続けなくてはならなかった。経済大国となった中国の暗い過去に、当時まだ生まれていなかったワン・ビン監督は強くこだわっていることが分かる。
第一部の最初に登場するのは、85歳になるジョウ・ホイナン。もともとは国民党の軍人だったが、共産党員として再教育を受けてからは、人民解放軍で精力的に働き、その後は地方の国有企業に勤めていた。「百家争鳴」の際に職場の改善案を提案するが、このことから反体制派に認定されてしまう。実直な性格と発言が、災いを招いてしまった。
ジョウ・ホイナンが語る、反体制派の摘発方法が実にえげつない。毛沢東は全人口の5%が統計的に「右派」になると考え、各職場から職員の5%を右派としてリスト化することを命じた。人数合わせのために、まったく身に覚えのない人も「右派」扱いされてしまった。革命を成し遂げた偉人・毛沢東の政治家としての暗黒面が明かされる。
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