陰謀論は実在するのか、それともトンデモ論か!? 衝撃の告発『誰がハマーショルドを殺したか』
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日本にも渦巻く陰謀論
本作を観た人の中には、ドキュメンタリー作家・森達也監督が執筆した『下山事件 シモヤマ・ケース』(新潮社)を思い浮かべる人もいるだろう。GHQ占領下の1949年7月、下山定則国鉄総裁は出勤途中に行方不明となり、翌朝になって綾瀬駅近くの線路上で礫死体となって発見された。この未解決事件を、ドキュメンタリー映画『A』(98)や『FAKE』(16)で知られる森監督は独自の視点から掘り起こしている。
昭和の怪事件として名高い「下山事件」を、森監督はドキュメンタリー作品にするつもりだったが、GHQ下のさまざまな秘密機関が暗躍したこの事件の真相を、取材撮影することは難しかった。結局のところドキュメンタリー映画化は頓挫し、取材が迷走した過程も含めた形でのノンフィクション本として2004年に発表している。謎に近づけば近づくほど、別の謎も次々と見つかり、謎はさらに大きくなっていく。取材者は距離感や方向感覚を失い、ぬかるみ地獄から抜け出せなくなる。陰謀論をノンフィクションの俎上にのせることは、極めて難しい。
劇場に足を運んだ観客もまた、迷宮の中に迷い込むことになる。「サイマー」の中心人物だったキース・マクスウェルは衝撃的な内容の回顧録を書き残しているが、晩年は心を病んでいたという。回顧録の内容は信用できるのか。本人が書いたという確証はあるのか。「サイマー」の内幕に詳しいジョーンズは、はたして何者なのか。「サイマー」はCIAだけでなく、英国の諜報機関MI6とも関わっていたというのは本当なのか。観客も、陰謀論という名の底なし沼にずぶずぶとはまってしまうことになる。
複雑に入り組んだ国際社会をあまりに簡略化して理解することは誤った世界観を招きかねないが、難航しながらも本作はとてもシンプルな答えに辿り着いたように思える。非常に排他的で好戦的な、白人至上主義者たちがいるということ。そして、ダイヤモンドやレアメタルなど資源豊かなアフリカ大陸の利権を求めている権力者や企業も存在するということ。その両者の利害関係が一致したとき、事件は起きた。一体、ハマーショルドの命の値段はいくらだったのだろうか。ハマーショルドには死後、ノーベル平和賞が贈られているが、黒人社会と白人社会との仲介役を失ったアフリカは、今も混乱の時代が続いている。
『誰がハマーショルドを殺したか』
監督・脚本/マッツ・ブリュガー 出演/マッツ・ブリュガー、ヨーラン・ビュークダール
配給/アンプラグド 7月18日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中
(c)2019 Wingman Media ApS,Piraya Film AS and Laika Film & Television AB
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