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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 月亭方正「もうね、報われる」
テレビウォッチャー飲用てれびの「テレビ日記」

月亭方正、ある芸人の証言と“落ち” 「もうね、報われる」

「もうね、報われる」

 40歳を手前に落語家を志した方正。当時関西で一緒に番組をやっていた落語家でタレントの月亭八光を通じ、彼の父親がやっている落語会への出席が認められた。

 そこで、師匠の月亭八方に出会うことになる。方正の弟子入りを、八方はすんなりと認めた。というのも、当時の八方は方正の弟子入りを、著名人の余技のようなものとして受け止めていたようだ。

 ただ、方正は毎月開かれる八方の勉強会に皆勤し、毎回違うネタを覚えてきた。その熱意が八方を突き動かす。八方は方正に問うた。

「お前ホンマか? 上方落語協会入るか?」

 協会に入る意味は重い。余技や遊びではいられなくなる。八方は続けた。

「お前、協会入って『やっぱり落語辞めます』ってなったら、この世界辞めろよ」

 それから半年後、八方の一存で方正は上方落語協会に所属した。ただ、後になって周囲に聞いたところによると、自分の入会に反対した噺家もいたようだと方正は語る。

「協会に入るときには、師匠はやっぱり周りの落語家さんに、反対派のほうの方に結構ガーッとなったみたい。でも、それを『もし方正が何かしたら俺も辞めるから』って言っていただいたっていう」

 方正もすでに52歳。山崎邦正から月亭方正になって7年が経った。落語の公演で地方を回ると、初めの頃は「ちゃんと喋れるんだ」「ちゃんと前が向けるんだ」「ちゃんと座ってられるんだ」というような反応が客からはあった。そのうち「すごいですね」とも言われるようになった。そんな反応を聞くと「もうね、報われる」と方正は語る。

「報われるのはね、褒められんねんな。今までそんな言われたことないの、この世界入って。『すごいですね方正さん。わー、しびれました』とかさ。そんなん言われたことないねん。でも落語のおかげで言われるようになった。これがもう、たまらなく嬉しいわけよ」

 コンビの解散、「おもろない」芸人と呼ばれ続けた苦悩、芸人としての魂を殺した20代半ば、再び”落ちた”40歳手前――。方正の話を聞いていた海原やすよ・ともこの2人は、それまでの紆余曲折は落語という光を見つけて「報われる」までの長いフリだったのかもしれない、とも言う。そうかもしれない。方正は振り返って語る。

「ホントにいい師匠に出会えたし、八方師匠じゃなかったらどういうふうになってたかわからへん。自分の位置がね」

 以上、方正の語りを書き起こしに近い形で紹介してきた。平成のテレビや芸能の世界を生き抜いてきた芸人の、ひとつの証言でもあるように思う。また、方正の語りにどういう印象を受けるのかは人によって違うだろう。その人自身の価値観が表れるのだろうとも思う。

 バラエティ番組で見る彼の姿は、今でも相変わらずスベっていたり、ヘタレなリアクションをしていたりすることも多い。そんな中、長い時間かけて自らを振り返る方正を、私は今回初めて見た。長尺で、笑いと涙を交えながらひとりの男の半生を物語った彼の姿は、確かに落語家のようでもあった。そして何より、おもろかった。

飲用てれび(テレビウォッチャー)

関西在住のテレビウォッチャー。

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いんようてれび

最終更新:2021/09/21 10:56
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