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木村花さん誹謗中傷を受けて…総務省が「中間とりまとめ」発表、被害者側の負担が大きい制度に迅速な対応

イメージ画像/出典:Kyrre-Gjerstad

 総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」は7月10日、ネット上の誹謗・中傷など権利侵害に対して、新たな裁判手続きを検討するなどの「中間とりまとめ」を発表した。

 恋愛リアリティ番組『テラスハウス2019-2020』(フジテレビ制作)に出演中だった女子プロレスラーの木村花さんが5月23日未明に亡くなり、その原因としてSNSに大量の誹謗・中傷が書き込まれ、炎上していたことが大きな社会問題となった。

 これを受けて総務省では、「SNS 上での誹謗中傷等の深刻化など、さまざまな権利侵害に関する被害が発生している」として、プロバイダに対する新たな開示項目や新たな裁判手続きなどについて検討を行っていた。

 現状でも、権利侵害情報が匿名で発信された際に、権利侵害を受けたとする者(以下、被害者)が発信者(以下、加害者)を特定して損害賠償請求等を行うことができるように、プロバイダに対して加害者ができる特定情報の開示を請求する権利を定めている。

 しかし、権利侵害が明白と思われる場合でも実務上、プロバイダが発信者情報を任意に開示することは多くないため、裁判手続に多くの時間・コストがかかり、救済を求める被害者にとって大きな負担となっている。

 中間とりまとめでは、新たに追加しようとする開示対象を①有用性②必要性③相当性―から検討を進め、現在は開示対象として規定されていない「電話番号」を追加することが適当とした。

 被害者がプロバイダから発信者の電話番号の開示を受けることができれば、電話会社に対して、弁護士会照会等を通じて発信者の氏名および住所を取得することにより、発信者を特定することが可能になると考えられるためだ。

 さらに、SNS などのログイン時情報も通信経路をたどって発信者を特定することができるため情報開示が検討されたが、「権利侵害投稿時の通信経路をたどって発信者を特定することができない場合に限定することが適当」とした。

 現状では加害者を特定するために、①コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示仮処分申立て、②アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟―という2段階の裁判手続をへてやっと、特定された発信者への損害賠償請求訴訟が行なえる。

 これは、あまりにも被害者側の負担が大きい。このため中間とりまとめでは、「権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みについて、新たな裁判手続とともに法改正を視野に制度設計の具体化に向けた検討を深めていくことが適当」としている。

 さらに、新たな裁判手続の創設が「海外のプロバイダに対して実効性のある仕組み」となるよう検討を行うことも加えられた。

 総務省では中間取りまとめを踏まえ、発信者情報の開示対象の追加に「電話番号」を追加するための関係省令の改正と「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」の改訂を行っていく方針だ。

 また、「ログイン時情報」は省令改正ほか、必要に応じて法改正を行うことも視野に入れ、具体化を進めていく。新たな裁判手続の創設についても、今後、被害者の救済の観点のみならず発信者の権利利益の確保の観点にも十分配慮を図りながら、“法改正を視野”に制度設計の具体化を進めていくことになる。

 もちろん、ネット上の誹謗・中傷など権利侵害に対する規制には、情報発信を行う加害者側の表現の自由などに十分に配慮していく必要がある。しかし、木村花さんが亡くなり、社会問題となると、誹謗・中傷を書き込んだ人たちは、一斉にコメントを削除する保身に走った。

 ネット上の誹謗・中傷など権利侵害に対する規制では、「匿名」という“隠れ蓑”を使い、低俗で悪質な書き込みを行う輩が逃げ切れることがないように、厳格な制度設計を行う必要がある。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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Twitter:@tohrusuzuki

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最終更新:2020/07/14 12:00
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