トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 動機なき連続殺人鬼の記録映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.591

海外で上映禁止となった実録サイコパスムービー、動機なき連続殺人鬼の記録『アングスト/不安』

『羊たちの沈黙』のモデルとなった殺人鬼

一家を惨殺したK.は空腹を満たすためにレストランへ。手袋をしたまま食事をする様子があまりに不審すぎて、通報されてしまう。

 同じように、司法が殺人鬼を野に放ったために起きた連続殺人事件を題材にしたのが、米国の実録犯罪映画『ヘンリー』(86)だ。こちらはすでにDVD化されている。この映画のモデルとなったヘンリー・リー・ルーカスも母親から虐待されて育ち、23歳の時に母親を殺害し、刑務所送りとなった。ヴェルナーの生い立ちとかなり似ている。

 ヘンリーにとっては、刑務所は天国のような場所だった。それまでの生活が無秩序すぎた。だが、ヘンリーが安らぎを感じた刑務所生活は長くは続かない。ベトナム戦争により、米国の財政は悪化。刑務所の予算は削減され、受刑者たちは次々と早期釈放される。ヘンリーは「出所したら、また殺人を犯す」と主張していたにもかかわらず、やはり釈放されてしまう。

 その結果、ヘンリーは300人以上の男女を殺害し、米国犯罪史上最大の殺人鬼となっていく。再び刑務所に帰ってきたヘンリーは、FBIの捜査に協力するようになり、エド・ハリス原作映画『羊たちの沈黙』(91)に登場するハンニバル・レクター博士のモデルのひとりとなった。

 戦時中の日本で起きた「津山事件」を題材にした映画に、田中登監督の『丑三つの村』(83)がある。『丑三つの村』の主人公・犬丸継男(古尾谷雅人)の場合は、継男を村八分扱いにした村人たちへの遺恨が村人30人を殺戮するという凶行へと至らせた。だが、継男に対して親切だった人には危害を加えないという線引きがあった。それに対し、『アングスト』や『ヘンリー』のモデルとなった殺人鬼たちは、因縁には関係なく、自身の快楽のために殺人を繰り返した。

 日本で封印が解かれた『アングスト』は、決して精神障害者や刑務所で更生を果たした人たちを危険視することを狙った作品ではない。だが、常識では測ることのできない、異常な犯罪者が実在することは覚えておいたほうがいい。

『アングスト/不安』

監督/ジェラルド・カーグル 撮影・編集/ズビグニュー・リプチンスキー

出演/アーウィン・レダー、シルヴィア・ラベンレイター、エディット・ロゼット、ルドルフ・ゲッツ 配給/アンプラグド  R15+ シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開中

(c)1983 Gerald Kargl Ges.m.H.Filmprodukution

angst2020.com

最終更新:2020/07/14 19:37
123
ページ上部へ戻る

配給映画