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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > “鬼母”長澤まさみが恐怖
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.590

息子を強盗殺人へと駆り立てた実在の事件が題材 “鬼母”長澤まさみが恐ろしい『MOTHER マザー』

男を生かすも殺すも、長澤まさみ次第

ホームレスに身をやつす秋子たち。この後、児童相談所の亜矢(夏帆)がサポートを申し出るのだが……。

 なぜ、そんな生き地獄のような状況から、周平だけでも逃げ出さなかったのだろうか?

 この事件の詳細を追った毎日新聞・山寺香記者によるノンフィクション『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』(ポプラ社)を開くと、加害少年は「学習性無力感」に陥っていたという精神科医の裁判での証言に触れている。

 学習性無力感とは、長期にわたってストレスを回避できない環境に置かれると、人間や動物はその状況から逃げる努力すらしなくなってしまう現象のことだ。第二次世界大戦中、ユダヤ人たちは強制収容所で死が待っていることを知りながら、なぜ抵抗しなかったのかと疑問を投げかける人がいるが、それは違う。抵抗しなかったのではなく、抵抗しようとする気力さえ根こそぎ奪われてしまっていたのだ。小さな頃から、周平は母親に逆らうことができなかった。学校に通うことを許されなかった周平が、母親から唯一学んだことが無力感だったというのは、あまりにも絶望的すぎる。

 実際の事件の全容を知ると暗澹たる気持ちとなるが、映画ではすっぴんでも、ホームレスになっても美しい母親を見捨てることができず、間違った方法で母親と幼い妹を守り抜こうとした周平の一途さに心が動かされる。オーディションで周平役に抜擢された新人・奥平大兼のまっすぐな眼差しが印象的だ。奥平は2003年生まれの16歳。これからいろんな役のオファーが相次ぐに違いない。

 長澤まさみは黒沢清監督のSF映画『散歩する侵略者』(17)では宇宙規模の母性を演じてみせ、本作ではその真逆となる、すべての男をダメにしてしまうサイテーの鬼女になりきってみせた。男を生かすも殺すも、長澤まさみの思惑次第だ。あらゆる男たちの生殺与奪の権を握る、とてつもない女に長澤まさみはなっていた。

『MOTHER マザー』
監督/大森立嗣 脚本/大森立嗣、港岳彦
出演/長澤まさみ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野大賀、土村芳、荒巻全紀、大西信満、木野花、阿部サダヲ
配給/スターサンズ、KADOKAWA PG12 7月3日(金)よりロードショー 
(c)2020「MOTHER」製作委員会

https://mother2020.jp

最終更新:2020/07/03 15:02
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