青春の終わりをピンク映画スタイルで描いた81分 主演女優・川上奈々美が愛おしい『東京の恋人』
#映画 #パンドラ映画館
「俺たち、もう終わっちゃったのかな」
かつての恋人との久々のセックスはとても甘美だが、同時に20代の頃に夢中になっていた映画への想いもよみがえる。立夫と満里奈は大学の映画サークルで出会い、映画づくりは2人に共通する夢だった。だが、自主映画で食べていけるほど世の中は甘くない。やがて2人は別れ、映画づくりの夢も諦め、それぞれ安定した生活と結婚を選択するに至った。
車で海に向かう2人はサングラス姿で、ジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)を気取る。単なる映画ごっこだが、2人は映画づくりはもう叶わない夢であることを悟っている。2人は自分たちの夢がすでに終わっていることを確かめるために会い、そしてセックスする。射精した瞬間に、夢も青春も終わる。気持ちよければよいほど、せつないセックスだった。
ジム・ジャームッシュ作品だけでなく、いろんな映画遊び、映画トリビアがところどころに散りばめてある。かつては新鋭監督として期待されていた先輩(木村知貴)はアルコール依存となり、「俺たち、もう終わっちゃったのかな」と呟く。もちろん、北野武監督の青春映画『キッズ・リターン』(96)からの引用だ。満里奈は立夫に「映画に時効なし」と言って、映画づくりを続けることを勧める。「俺が死んでも映画は残る。映画に時効なし」と言ったのはインディーズ映画の帝王・若松孝二監督だ。さらに加藤泰監督、安藤昇主演の刑務所もの『懲役十八年』(67)が、立夫と満里奈とを結ぶキーワードとして使われる。満里奈が口ずさむ「大阪で生まれた女」を歌った稀代の名優・萩原健一は、2019年3月に亡くなった。
映画をこじらせて10~20代を過ごしてきた主人公たちから、映画を取ってしまうと何も残らない。何もないただ真っ白な広野を、立夫も満里奈もこれからどうやって生きていけばいいのだろうか。別れ際に満里奈から手渡されたビデオテープを、立夫は妻に内緒でこっそり見ながら、自分が失ったものの掛け替えのなさに気づくことになる。浦島太郎のように、東京から戻ってきた自分が老け込んだことを実感せざるを得ない立夫だった。
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