『麒麟がくる』が描かない明智光秀──“稀代の裏切り者”は側室ゼロの愛妻家だった?
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大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)の放送が、新型コロナウイルスの影響で中断を余儀なくされている。放送再開が待ち遠しいが、この空白の時期を使って主人公「明智光秀」についてより理解を深めてみるというのはいかがだろうか? 今回は、歴史エッセイストの堀江宏樹氏が“愛妻家”としての明智光秀に迫っていく──。
日本社会は、婚外恋愛、いわゆる不倫の類に非常に厳しくなってきていますね。今と昔は時代が違うといいつつも、大河ドラマの主人公にしやすい人物と、そうではない人物をわけるのも、その人の色恋沙汰だったりするかもしれません。
「英雄色を好む」という言葉どおり、武将といえば、正妻のほかにも側室など多くの“妻”を抱えているケースが圧倒的多数な中、側室を持たなかった有名武将の名前もチラホラ。
何年か前に大河になった黒田官兵衛は「妻一筋」だったといわれる一人。また、今年の大河『麒麟がくる』の主人公・明智光秀も、側室を持たなかったといわれているのです。
黒田と明智、二人の共通点には「頭がいい」ゆえに「金にもシビア」というのがありますね。一度抱えると、簡単には手放せないのが側室です。正室もいる屋敷で同居し続け、その上衣食住も負担する維持費を考えてしまったのかもしれません。……などと想像するのはやめましょうか。今日のテーマは「明智光秀は愛妻家だったか?」ですし。
しかし、明智光秀の奥方については謎が多いのです。その名前すらハッキリとはわからないといわざるを得ません。明智が復興に尽力し、明智一族の墓がある寺として知られる西教寺(滋賀県)の主張では、「明智家の過去帳に熙子の名前は存在する」とのことですが、同時代の史料の中に明智の妻についての記述は数回出てくるだけ。しかも、そのいずれも「明智光秀の妻」として書かれているだけなのです。
今回の記事では便宜上、彼女のことを熙子と呼びますが、謎の多い明智以上に、彼女の実像は謎なのでした。だからこそ、今年の大河ドラマでは木村文乃さん演じる熙子のキャラクターは、チラホラ残る逸話をあまり反映せずに自由に作られている気がします。
歴史的に見ると、熙子と明智には、いくつか面白い逸話があるのです。まずは2人が結ばれるまでの有名エピソード。
美しかった熙子ですが、明智との結婚前に天然痘にかかり、回復したものの顔に傷跡が残ってしまった。熙子の実家は、彼女と瓜二つの妹を明智のもとに熙子と偽って届けたが、彼は熙子の顔にあったハズのホクロが妹にはないことから、別人が来たと見抜き、最終的に「顔に傷がついたとしても、自分は熙子と結婚する」と言いはって、そうした……というお話、聞いたことありませんか?
しかし、ソースは残念ながら江戸時代の井原西鶴の小説です。正確には西鶴の「武家物」といわれるジャンルの小説集『武家義理物語』にふくまれる短編のひとつで、つまり完全なフィクション。彼女が病気をしたかの真偽もまったくわかりません。
「それでも熙子と結婚する」で終わればイイ話かもしれませんが、小説は「顔に傷がある女と結婚したからこそ、明智は妻の色気に惑わされず、武士として立派な仕事ができたのだ」と続き、「不美人婚のススメ」みたいなまとめで終わってしまう話でもあります。
不美人をあえて選んで結婚したという『三国志』の諸葛孔明の話もありますが、その影響も感じられますね。
まぁ、この逸話を採用したところで、顔に傷跡の特殊メイクを毎回、木村文乃さんに施すのも大変でしょうから、この逸話は今回の大河ではなかったことにされたのだと思います。
ほかに明智と熙子の愛情エピソードといえば、明智が、とても貧しかったといわれている越前時代初期、宴会費用がまかなえないため、当時の美女の第一条件だった美しい黒髪を熙子が売って、それでお金をなんとかした……というお話もありますね。
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