トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 社会 > メディア  > 在日クルド人の現実

渋谷区職質問題をきっかけに知ってほしい──在日クルド人ドキュメンタリーが映し出す“日本の難民”

Getty Imagesより

 5月22日、渋谷区内でクルド人男性が職務質問を受け、その後、警察官から威圧行為を取受けるという出来事があった。くしくも同じ時期にアメリカ・ミネソタ州ミネアポリス市で黒人男性が、白人警察官からの尋問の中で首に圧力をかけられ死亡したという事件もあり、重ねるようにして記憶に残っている人も多いのではないだろうか。

 もちろん、ミネアポリスの一件のように、このクルド人の出来事にもさまざまな議論がネットをにぎわせている。また、ネット上での反応を見ていると、ミネアポリスの一件に胸を痛めつつも、日本にはあのような差別は存在しないと思っている人も見受けられた。

 実際には日本にも多くの外国人が暮らし、差別が存在しているのにもかかわらず、それが見えていないということも多い。今回のニュースに心を痛めはしても、実際にクルド人の暮らしや現状については知らない人がほとんどなのではないだろうか。彼らは一体、日本の中でどんな暮らしをしているのか、日本のドキュメンタリーやテレビ番組から、彼らの一面をみていきたいと思う。

『東京クルド/TOKYO KURDS』(2017年)

 私が日本における難民の現状に興味を持ったのは、『東京クルド』という番組であった。

 この番組の主人公は、一人の若者、オザンだ。彼の語りで始まるこの番組は、テレビ朝日の「テレメンタリー」(日曜、午前4時30分より放送)の枠で放送されていたが、スタイリッシュな映像で短編映画のような趣があった。

 オザンは6歳のときに日本にやってきたが、その言葉遣いは日本に住む若者そのもの。多くの日本の若者と違うのは、彼が難民申請をしても認定をもらえない不法滞在者とみなされているということだ。

 不法滞在者は、表向きは働いてはいけないし、定期的に入国管理局(入管)に出頭しないといけない。オザンの従兄弟は、入国者収容所に入れられて、最近やっと仮放免で出所してきたばかりだ。

 その従兄弟はオザンに言う。「18か19で一回入ることになるよ」と。収容所に入っていた従兄弟は、そこでは何もすることがなく「いつも暇。本当の刑務所みたい」と語る。その表情には、さっきまでオザンに冗談を言っていたときのような笑顔はなかった。

 オザンにも夢がある。お笑い芸人になって、クルド人の状況などについてテレビで知ってもらうことだ。

 ある日、オザンは意を決して外国人専門の芸能事務所の面接を受けに行く。髪を整え、スーツを着るオザンの姿を観て、映画『ジョーカー』を思い出してしまった。もちろん、この番組のほうが映画よりも放送は早いし、オザンがこの後、ジョーカーのように気持ちを爆発させてしまうことはない。しかし、何か自分の居場所を見つけようとしているとき、人は「笑い」によって存在証明しようとするものなのだと思わされた。

 オザンは結局、面接では好感触を味わいながらも、「お笑い」という仕事をすることはかなわなかった。不法滞在者には就労が認められていないからだ。

 彼は、家に帰り、携帯でシリアで戦うクルド人の若者の映像を観て、そして静かにスケボーに乗って街を無言で駆け抜ける。自らの気持ちを静めようとしているかのような映像で番組は終わるのだった。

123
ページ上部へ戻る

配給映画