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ヒップホップのタイプビートとは何か?

ビートリーシングは“音源版JASRAC”! ラッパーを地元の呪縛から解放! “タイプビート”ビジネスの可能性

――今、YouTubeで「○○(アメリカの人気ラッパー) Type Beat」と検索すれば、数多くの動画が出てくる。無名のラッパーたちは日々その作業を繰り返し、近年、“タイプビート”と呼ばれるこれらの動画の音源を用いたヒップホップのヒット曲も生まれている。そんな新たな音楽文化/ビジネスの可能性を探ってみよう。

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YouTubeからビートストアへ飛ぶ! ビートリーシングのカラクリ
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YouTubeで「XXXTentacion Type Beat」と検索すると、こんな動画がヒット。

 2017年、アメリカにおける「ヒップホップ/R&B」の売り上げが、史上初めて「ロック」を上回り、全米でもっとも消費されたジャンルとなった。以降、とりわけヒップホップに関してはチャートの上位を独占することも珍しくなく、完全にメインストリームの音楽として定着している。

 それに伴いラッパーを目指す若者も増えているが、ラップをするには、そのラップを乗せるビートが欠かせない。だが、駆け出しのラッパーには周りにビートを作れる人間がいない場合も多く、またプロのビートメイカーに依頼する金もコネもない。結果、若いラッパーはYouTubeでビートを探し始め、10年代半ばから“Type Beat(タイプビート)”と呼ばれるビートが無数にアップされている。

 タイプビートとは「○○っぽいビート」という意味であり、例えば「Drake Type Beat」なら「ドレイクっぽいビート」ということになる。もともとは大量にアップされるビートの中で自分のビートが検索上位に来るように、つまりSEO対策として有名ラッパーの名前とセットでビートをアップするようになったのが始まりといわれている。

 YouTubeにアップされたタイプビート動画にはビートストアへのリンクが張ってあり、好みのビートを見つけたラッパーはそこでダウンロード購入することができ、代金はPayPal経由ですぐにビートメイカーに送金される。購入に際しても、1枚目の画像で示した通り、いくつかのライセンスオプションがあり、ラッパーは予算と目的に応じた音源データを選択できる。

 このビジネスモデルは「ビートリーシング」と呼ばれ、ヒップホップシーンに瞬く間に浸透。16年に大ヒットしたデザイナーの「Panda」や、19年に米ビルボードチャートの連続1位記録を塗り替えたリル・ナズ・Xの「Old Town Road」といったヒット曲も生まれている。また、エイサップ・ロッキーが15年に発表した「Fine Whine」は、本人自ら「A$AP Rocky Type Beat」で検索して見つけたビートを使用したものだ。

イギリスのビートを使うブルックリンのラッパー

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昨年、「Old Town Road」が爆発的にヒットしたリル・ナズ・X。同曲もタイプビートが関係している。(写真:Axelle/Bauer-Griffin/FilmMagic/Getty Images)

 現在、タイプビートはアメリカではすでに飽和状態にあるが、なぜ爆発的に浸透したのだろうか?

「単純にヒップホップと相性がよかったんでしょうね。というのも、もともとラップのビートはタイプビート的なものとして広まったようなところがあります」

 そう語るのは、ヒップホップに詳しいライターの磯部涼氏。

「例えば、10年代以降のヒップホップのトレンドであるトラップのビートは、米アトランタのプロデューサー(ビートメイカー)であるレックス・ルガーが09年にプロデュースした、ワカ・フロッカ・フレイムというラッパーの楽曲『Hard in Da Paint』がひとつの起点になっています。その後、レックス・ルガーがヒットを連発したかというとそうではなく、すぐにほかのプロデューサーたちも似たようなビートを作り始め、むしろ同じくアトランタのメトロ・ブーミンなどが大物プロデューサーとしての地位を築いています。要は、オリジナリティも重要ですが、それよりもある“タイプ”のビートが繁殖していくところにラップの面白さがある」(磯部氏)

 レックス・ルガーもメトロ・ブーミンもアトランタのプロデューサーであり、「トラップはアトランタ発祥」といわれるように、かつてはそのビートを生んだ土地が重要であった。しかし、ネット上でビートがやり取りされるようになって以降、もはやその重要性も薄れているという。

「象徴的なのは、ポップ・スモークというラッパーが19年に発表した『Welcome to the Party』という曲です。彼はニューヨーク・ブルックリン出身のラッパーなのですが、使っているビートはUKドリルという、その名の通りイギリスのビート。しかも、ポップ・スモークも彼の周りのラッパーたちもYouTube経由でUKのプロデューサーからビートを買っていて、それがブルックリン・ドリルというひとつのムーブメントになっています」(同)

 そもそも“ドリル”とは、アトランタで生まれたトラップがシカゴで凶悪化したものだ。それがイギリスに渡り、当地のクラブミュージックであるグライムなどと合流し、UKドリルという独自のシーンが形成された。

「アトランタのラッパーがアトランタ産のビートでラップをするというローカルなスタイルから、地元は関係なくラッパーとビートが結び付くようになり、さらに次の段階としてUKドリルという確立されたシーンがいきなりブルックリンに移植される、みたいなことが起きています。ただ、そのブルックリン・ドリルの一番の有望株だったポップ・スモークは20歳の若さで、今年の2月に自宅で銃殺されてしまいましたが……」(同)

 ラップのビートがローカルから切り離されるという意味で、タイプビートはいわゆるグローバル化を後押ししているという見方もできる。事実、世界中のビートメイカーがYouTubeにビートをアップしている。

「グローバル化は平均化と言い換えることもできて、タイプビートもアートというよりはプロダクトのようなところがあります。でも、ラップはアートではあるけれど、シーン全体がひとつの市場、もしくは生態系みたいになっていて、その中で異種交配が繰り返されながら成長していく点にこそ面白さがある。要するに、先ほどのオリジナリティの話とも重なりますが、天才ではなくて有象無象の存在が重要なわけで、タイプビートはそれを体現しているともいえます」(同)

 また、タイプビートはネット上で、原則として交渉なしで即ビートの売買が成立する。つまり、そこに煩わしい人間関係はない。

「日本でも、昔は地元の先輩が作ったビートを使うパターンがよくありましたよね。しょぼいビートなんだけど、先輩だから断れない、みたいな。でも、ビートストアで買えば、そうした地元のしがらみから解放される。僕が日本のラッパーから初めてタイプビートについて聞いたのは、17年にWeny Dacilloというラッパーにインタビューしたときなのですが、彼も『ビートは大体YouTubeで探してる』とサラッと言っていて、そこにはある種の軽やかさを感じました」(同)

 日本ではタイプビートはまだ浸透過程にあるが、磯部氏の言うように使っている人は使っている。

「17年にヒットしたJP THE WAVYの『Cho Wavy De Gomenne』もタイプビートだそうです。あるいは、18年にDJ CHARI & DJ TATSUKIがリリースしたアルバム『THE FIRST』では、各曲でフィーチャーしたラッパーに合うタイプビートを見つけてくるような作り方をしています。彼らにとってビートの作り手が何者であるかは重要ではなく、ただ試聴して『いいじゃん』と思ったビートを選んでいると思います。つまり、音だけで判断しているのであって、そこに余計な情報がない分、より純粋な音楽活動と解釈できるかもしれません」(同)

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