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『ホームレスはなぜ河原に住むのか?』 野宿生活者を追ってきたライターによるホームレスの現在地

『ホームレス消滅』著者:村田らむ出版社:幻冬舎新書価格:990円発売中

 2020年3月25日、岐阜市の河渡橋の近くで暮らしているホームレスを、5人の少年が襲い殺害するという痛ましいが起きた。このような事件は、ホームレス取材をしていると本当によく耳にする。殺人に至ったために警察は捜査をしたが、これがもし暴行だけに留まったとしたら、警察に通報したところで「お前らにかまっているヒマはない」と追い返されることも多々あるという。
 
 長年ホームレスの取材を続けてきたライター、村田らむ氏の著書『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)では、野宿生活者たちはなぜ河川敷に住むのか? を改めて検証している。多摩川、淀川などの河川敷に住む人たちに長期間取材をした結果、多くのリスクを抱えながらも、“河川敷に行き着いてしまう”理由が見えてきた。

 今回は同書から、一部抜粋しながら紹介していきたい。

ホームレスはなぜ河川敷に住むのか?

「近年、僕が東京に住むホームレスの取材に行く先は、もっぱら河川敷が多い。理由は単純で、河川敷にはホームレスがまだたくさん住んでいるからだ。

 僕が取材を始めた2000年前後は、彼らの多くが都市部の大きな公園に住んでいた。そのため、2000年前半は都市部の公園を中心に取材をしていた。東京の上野公園や代々木公園には、数百人という中学校1校分の生徒数に匹敵するほどの、話を聞き切れないホームレスが生活していた。それと同時に、高速道路の高架下や繁華街に近い駅周辺にも、そこかしこにホームレスが点在して暮らしていた」

 村田氏は著書の中で、ホームレスの環境の変化についてこう触れている。 東京都では今、行政の対策によって、“街中”でホームレスを見かける機会がほとんどなくなった。実際、「東京に住むホームレスのうち、公園(都・区・市管理)に住むホームレスは2012年1月時点ではまだ 35.9%を占めていた。しかし、2019年1月時点では25.2%となっている」(データは東京都福祉保健局が発表する数字をもとに算出)のだそうだ。
 
「一方、河川敷(国管理のみ)に住むホームレスは、2012年1月時点では36.7%を占めていたが、その後2013年1月以降は40%以上を占めており、2019年1月時点では45.6%となっている。

 つまり、東京に住むホームレスの半数ほどは、繁華街から少し離れた河川敷という自然のあるところに住んでいる状況なのだ。このため、ただでさえ少なくなった東京のホームレスは、多くの人に見えなくなっているといえる。

 では、河川敷に住むホームレスはどのような人たちでどういう生活をしているのか。厚生労働省が発表している2016年10月に行なわれた「ホームレスの実態に関する全国調査」の分析結果を見ていきたい。

 3ヵ月未満の初心者ホームレスの多くは公園で寝ているが、3ヵ月から6ヵ月になると 駅舎の割合が高くなっていき、1年から5年未満だと道路の割合が高くなってくることが指摘されている。そして、5年以上になると、河川敷の割合は一気に増え、10年以上暮らしているとなると、河川敷が33.4%と、公園の32.9%を上回ってトップに躍り出る。

 つまり、河川敷ホームレスとは、ベテランのホームレスなのだ。長く生活するうえで、河川敷は公園や道路、駅舎よりもメリットがあるのだろう。河川敷に住むホームレスは、「今のまま(の路上生活)でいい」と答える人の割合が高いことも指摘されている。

 いちばんのメリットは、小屋を常設できるということだ。常設のテントや小屋がある人は公園だと 34%、道路だと39.6%、駅舎だと6.5%という数字に対して、河川敷では82.8%という突出した数字が出ている。

 つまり、河川敷ホームレスとは、多くが“家”を持っているホームレスなのだ」

 さらに著者は、「河川敷ホームレスは、公園や駅舎に住むホームレスと少し違った人たちである」と続ける。

「むろん、彼らの多くはアルミ缶回収業を行ない、元日雇い労働者や元工場労働者をしていたため、共通要素はある。だが、彼らの多くは、炊き出しに頼った食生活を送っていないし、繁華街から離れて暮らしているし、何よりも安定的な“家”を持っている。そして、僕が取材した結果だが、彼らは国や自治体が行なうホームレス政策にも、左右されずに暮らしているように見えるのだ」

都市に寄生するホームレスが河川敷を選ぶ理由

 では、河川敷に暮らすホームレスたちはどのように生活しているのだろうか? 村田氏によれば、「繁華街や人の往来が多い自動販売機のゴミ箱からアルミ缶を回収し、駅舎のゴミ箱や電車の網棚から雑誌を回収して、換金し、生活費に充てる」というホームレスの生活は、都市に依存する部分が大きいという。となれば、本来は都市部の駅舎や駅近くの大きな公園に居住するメリットのほうが大きいはずだ。都市の駅や繁華街から離れている河川敷は、公園や駅舎に圧倒的に劣る。

 それでも河川敷を選ぶのは、「小屋を建てて住んでいても文句をいわれず、追い出されないというメリットもある」からだと、村田氏は指摘している。以下、再び引用する。

「文句をいわれないといっても、河川敷に小屋を建てて住むホームレスは、河川法の第24条『河川区域内の土地を占用しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない』と、同第26条第1項『河川区域内の土地において工作物を新築し、改築し、又は除却しようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない』に違反している。

 そのため、定期的に国土交通省関東地方整備局の人がやってきては、法律を犯しているから、立ち退く旨を書いた紙を違法建築物に貼っていくのだ。多摩川の河川敷でこの張り紙を10枚以上貼られていた小屋も見たことがある。張り紙には『ここは、国土交通省が管理している多摩川の河川区域です。河川区域を許可なく耕作することは、河川法第24条(土地の占用)、第27条(形状変更)に違反しています。法律を犯しています! 直ちに現状を回復するよう注意します。』と書かれていた。ちなみに『法律を犯しています!』の部分は目立つように赤字で書かれていた。

 10年間多摩川に住んでいるというホームレスが事情を話してくれた。

『1ヵ月も2ヵ月も誰も住んでいないってなると、公的機関の人が来て、勝手に取り壊していくんだよ。お金が欲しい人は、出張で飯場とかの仕事に入るじゃない? そういう人たちは近所のホームレスに『役所の人間が来たら、しばらく出稼ぎに行ってるって伝えてくれ』っていってから出かけるんだよね。まあ、(立ち退きをさせる)仕事は彼らも好きじゃないみたいね」』

 住んでいる人を、強制的に追い出すわけではない。大阪の淀川の河川敷に長年住んでいるホームレスは次のようにいう。

『出ていけとはいわんわけよ。俺らにも基本的人権があるからな。「撤去してください」って書いていったりするな』

 これは、河川法よりもより重大な生存権にかかわってくるという考えからだ。本書の「はじめに」でも、憲法第25条第1項「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」に触れたが、これが生存権である。ホームレスを追い出すことを、生存する基盤となる場所を?奪する行為と考えれば、憲法第25条に違反しているという理論の筋が通る。

 ただ、このような法律・憲法云々の問題よりも、強制的に追い出されないことは、ホームレスが住む河川敷が、堤防・土手を介して住宅地と一定の距離があることと、河川敷そのものがとても広いことのほうが関係しているだろう。

 河川敷にホームレスが複数人住んだところで、困る地域住民はまずいない。詳しくは後述するが、彼らが住む河川敷の小屋は、橋の柱の裏か、川に近い茂みの中にある。舗装している道をランニングする人にも野球をする少年たちにも邪魔になるわけではない。そのため、そもそも地域住民であっても、嫌がらせ以外で苦情を入れる理由がないのだ。

 さらに、土地が広すぎるため、立ち退いたホームレスが、またすぐ近くに小屋を建てるのを防ぐ手立ても現実的にはない。河川敷は24時間、誰にでもオープンに開かれている。もちろん、立ち退かせるには、手続きの手間もかかるし、建築材の撤去等に税金もかかる」

 こうしたそれぞれの事情が重なり合った結果、国が管理する河川敷こそが、ホームレスにとって貴重な“居住地”となったわけだ。冒頭で触れた通り、人の目に触れにくいところだからこそ、身の危険もないわけではない。仕事に向かうには不便もある。それでも、もっとも大きなリスク——“追い出される”危険が少ない場所として、河川敷が重宝されているのだ。

 本東京は2024年を目標とした「ゼロ」宣言を、大阪は2025年の万博に向け、日雇い労働者の街・西成を観光客用にリニューアルする計画を発表し、いよいよそうした“安全な”居住地からも追い出される可能性が高まった今、同書では、数字からだけでは見えてこない、最貧困者たちのプライドや暮らしぶりをレポートしている。

 何かのきっかけに、絶対にホームレスにならないとは言い切れない。その時、自分ならどうサバイブできるのか。他人事ではないホームレスの現状から、目を背けてはならないのではないだろうか。

(以上、「」内はすべて、5月28日刊行『ホームレス消滅』(幻冬舎新書 村田らむ)より引用)

『ホームレス消滅』
著者:村田らむ
出版社:幻冬舎新書
価格:990円
発売中

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最終更新:2020/06/14 00:00
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