敗戦後の国家を再建したのは戦犯たちだった!? 不問にされた戦争犯罪を暴く『コリーニ事件』
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巣鴨プリズンから釈放されたA級戦犯
ナチスドイツの隠されていた戦争犯罪を暴いた本作だが、戦後の経済界で成功を収めたハンス・マイヤーを見て、日本人の多くはA級戦犯容疑者として巣鴨プリズンに送られながらも、戦後復興期の日本で再び精力的に活動した“昭和の妖怪”岸信介(安倍総理の祖父)、日本テレビの初代社長・正力松太郎、政財界のフィクサー・児玉誉士夫、日本船舶振興会の創設者・笹川良一……らのことが思い浮かぶのではないだろうか。
岸信介は太平洋戦争開戦時に東條英機内閣の商工大臣を務めるなど、戦時中の日本で重要な役割を担っていたが、極東国際軍事裁判こと「東京裁判」で東條英機、広田弘毅ら7名が絞首刑を宣告されたのに対し、彼らは不起訴で釈放され、朝鮮戦争後の日本の高度成長に表から裏から貢献することになった。
ドイツも日本も、1945年を境にして戦前と戦後に時代分けされているが、現実の社会はそうではなかった。戦前や戦中から力を持っていた有力者たちがその時代の権力者たちとうまく接しながら、実社会を回してきたわけだ。歴史のベールをはぐと、そこにはドロドロとした深い闇が広がっている。
原作小説の終盤に面白い記述がある。戦後、多くのドイツ市民は、ナチスドイツが犯したユダヤ人大量殺戮の事実を知らずにいた。ドイツ市民がその事実に向き合ったのは、1963年~65年にフランクフルトで開かれた「アウシュビッツ裁判」からだった(このへんの経緯は、映画『顔のないヒトラー』で詳しく描かれている)。ドイツ市民の感情に大きな変化が起きたのは、さらに時間を経て、1978年に制作された米国のテレビドラマ『ホロコースト』がドイツでも放送されてからだという。
人間は自分が見たいと思ったものしか、見ようとはしない。見なかったものは、なかったことにしようとする。誰もが不都合な事実は、闇に隠そうとする。『コリーニ事件』はそんな不都合な事実を、陽のあたる場所へと引きずり出してみせた。
『コリーニ事件』
原作/フェルディナント・フォン・シーラッハ 監督/マルコ・クロイツパイントナー
出演/エリアス・ムバレク、アレクサンドラ・マリア・ララ、ハイナー・ラウターバッハ、フランコ・ネロ
配給/クロックワークス 6月12日(金)より新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
(c)2019 Constantin Film Produktion GmbH
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