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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.587

敗戦後の国家を再建したのは戦犯たちだった!? 不問にされた戦争犯罪を暴く『コリーニ事件』

優しい「父親」が隠していた、もうひとつの闇の顔

懐かしの西部劇『続・荒野の用心棒』に主演したフランコ・ネロ(画像左)。殺人事件の容疑者コリーニを演じている。

 イタリアのトスカーナ州に到着したライネンは、少年時代のコリーニを知っていた人物を探し当てる。コリーニはかつて、ハンス・マイヤーと出会っていた。ハンス・マイヤーは第二次世界大戦中、ナチス親衛隊の青年将校としてイタリアに進駐していたのだ。しかも、コリーニの父親は、ハンス・マイヤーの命令によって銃殺刑にされていた。ナチスの戦争犯罪が事件に絡むことが分かり、ライネンだけでなく法廷全体が騒然となる。

 なぜ、コリーニの父親は無実の罪で銃殺されなくてはならなかったのか? そして、なぜハンス・マイヤーは戦後、その罪を問われなかったのか? ここからが作品の本筋となっていく。

 第二次世界大戦時、テロが起きた場合は殺された兵士ひとりにつき、テロリストをかくまった疑いのある民間人10人を殺してもよいことが国際的に認められていた。ドイツだけでなく、他国でも行なわれていることだった。コリーニの父親は、2名のドイツ兵を殺害したパルチザンへの見せしめとして処刑された20人のイタリア市民のひとりだった。青年将校のハンス・マイヤーは、子どもや女性は処刑しない、処刑前にリンチは加えないなどの、戦時下の国際ルールに従った上で、殺戮を命じていたのだ。

 ライネンは自分が弁護士の道に進むことを喜んでくれた、大恩人であるハンス・マイヤーの隠された過去を公表し、さらにはハンス・マイヤーをはじめとする戦争犯罪者たちを無罪にしたドイツ法曹界のさらに深い闇に迫ることになる。この先の展開は映画、もしくは原作小説で確かめてほしい。

 その原作小説だが、まず手にして著書のプロフィールに驚きを覚える。作家、弁護士。1964年ドイツ・ミュンヘン生まれ、とある後に、ナチ党全国青少年最高指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫と記してある。原作者はヒトラーユーゲント高官の孫であり、ナチスの戦争犯罪はユダヤ人大量虐殺以外にもまだあることを小説という形で明るみにしたわけだ。主人公ライネンの葛藤は、原作者自身のものであったに違いない。

 復讐鬼となったコリーニを演じたのは、マカロニウエスタンの名作『続・荒野の用心棒』(66)などで知られるフランコ・ネロ。イタリア映画界のベテラン俳優である彼の寡黙な演技も見ものだが、映画では父親と子どもとの関係性を強調したものとなっている。ライネンは幼い頃に自分と母親を捨てた父親を憎んでいる。ライネンにとっては、経済的にも精神的にも余裕を持つハンス・マイヤーこそが「父親」として尊敬できる対象だった。だが、ハンス・マイヤーの戦時中の顔を知り、ライネンは「父親」という存在が分からなくなる。ハンス・マイヤーが血の繋がらないライネンをかわいがったのは、贖罪の意識からだったのだろうか。

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