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アフターコロナは中国のひとり勝ち!? 未来図を占う羅針盤『新型コロナvs.中国14億人』

『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)

 新型コロナウイルスによって、世界の在り方は激変。アフターコロナの世界秩序はどうなる、なんてフレーズも囁かれているなか、今年始めに中国・武漢でウイルスが蔓延し、都市封鎖が行われていたことが、遠い昔のように思える。思えば、あのときはまだ大部分の日本人は、自分たちの身にやがてコロナ禍が襲いかかることを自覚していなかった。

『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)は、経済ジャーナリストで、中国滞在歴の長い浦上早苗氏が、中国におけるウイルスの戦いと、日本の対応策を比較した本である。取材のほとんどがオンラインで行われたという本書は、著者がインターネットメディアで連載した記事がもとになっており、著者にとっては初めての著書である。このたびのコロナ禍を扱った新書としては、最も早い刊行の部類に入るだろう。このスピーディーさは、普段ネットメディアにいる著者ならではのもの。いまだ日本ではコロナ禍の第二波が懸念されるいまだからこそ、読んでおくべき本である。

 著者は本書の冒頭部分で、中国をめぐる報道は、「中国やばい」のワンフレーズに集約されると書く。その中身は、「ITの進化や規模が半端ない」「民度の低さが半端ない」「中国共産党の隠蔽が半端ない」の3パターンに分けられるというが、中国を過剰に貶める言説も、反対に持ち上げる言説も、しばしば客観性を欠き、事実を歪めさせる。本書はそのいずれのワンパターンにも陥らず、中国と日本、双方のコロナ対策の長所と短所を事実に基づいて冷静に分析してみせる。

 2019年12月30日にいち早く武漢でウイルス発生をネットに投稿した医師が、デマを流したとして処罰された事実は、中国当局の隠蔽体質の負の側面がまざまざと現れた事例であり、その医師が新型コロナで亡くなったことは、中国人たちを憤慨させた。一方で、2002年から03年にかけてもSARSの蔓延でも対策にあたった感染症の専門家である鐘南山は、83歳という高齢ながら、期限と論拠を明らかにした会見で、中国人に我慢を受け入れる覚悟を持たせた。さまざまな自称専門家がテレビに出ては、国民を混乱させ、政治家も煙に巻くような空疎な横文字ばかりを先行する日本とは対照的である。

 感染者の行動履歴を分単位で公表し、監視カメラとスマホのGPSの情報をもとに感染を武漢のある湖北省に封じ込めた中国の成果は、「テクノロジー」と「強権」そして「個人情報の徹底利用」の賜物であり、そこにはプライバシーのかけらもない。スピーカーを内蔵したドローンが、市内を巡回し、マスクをしていないお年寄りに家に戻るよう呼びかける映像が、武漢での流行時に日本のニュースでも流れたが、その光景はまるでディストピアSF映画のようだった。しかし、そんな超管理社会のおかげで世界でもいち早くコロナ禍から脱し、経済を再始動させた中国政府の実行力を有り難く思っているのが、いまの中国の普通の市民たちなのだ。

 一方の日本では、外出禁止の強制やプライバシーの剥奪を伴わないソフトなコロナ対策が行われたが、マスク着用の習慣も功を奏したか、当初の危機を脱しつつある。しかし、依然として第二波へのぶり返しが懸念されるなか、中国は技術力と政治力でますますその存在感を発揮。ひるがえって見れば、アメリカでは中国をはるかに超える10万人以上の死者を出し、警察官によって黒人男性が死亡させられた事件が国を揺るがす抗議活動に発展している……。

 先行きの見えないアフターコロナの世界に備えるためにも、この怒濤の5カ月を整理してくれる本書は、その格好のテキストだが、「ウイルスばらまいたら死刑」という帯の惹句は典型的な「ヤバい中国」文脈で、本書のスタンスとはむしろ相反している。この帯だけは、もう少しなんとかならなかったものだろうか。

里中高志(ジャーナリスト)

フリージャーナリスト。精神保健福祉士。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に『栗本薫と中島梓 世界最長の物語を書いた人』(早川書房)、『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)、『触法精神障害者 医療観察法をめぐって』(中央公論新社)。

最終更新:2020/06/09 12:12
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