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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.585

殺人を犯した未成年者たちの更生は可能なのか? 実在の少年犯罪が題材の『許された子どもたち』

内藤監督が少年犯罪にこだわり続ける理由

少年審判で罪を問われる絆星(上村侑)。母・真理(黒岩よし)は息子をひたすら守ることに終始する。

 内藤監督は『許された子どもたち』の制作と同時期に、前作『ミスミソウ』(18)の撮影も行っていた。押切蓮介原作コミックを実写映画化した『ミスミソウ』も、少年少女たちの間で起きるいじめを主題としており、いじめが次第にエスカレートして放火や殺人にまで発展する強烈な内容だった。内藤監督のフィルモグラフィーを振り返れば、デビュー作『先生を流産させる会』をはじめ、『パズル』(14)や『ライチ☆光クラブ』(16)など、未成年者と暴力との関係性を扱った作品が多いことに気づく。内藤監督は特別支援学校の教員を務めながら、それらの問題作を撮り続けてきた。

 なぜ、内藤監督は未成年者と暴力、少年犯罪にこだわり続けるのだろうか。『ミスミソウ』の劇場公開時にインタビューした際、内藤監督は興味深い話をしてくれた。内藤監督が10代のときに、神戸の児童が連続して殺傷される酒鬼薔薇事件が起き、さらにその3年後に内藤監督の地元で豊川市主婦殺害事件が発生した。14歳のときに酒鬼薔薇事件を起こし、のちに手記『絶歌』(太田出版)を出版した元少年Aも、「人を殺してみたかった」という言葉を残した豊川市主婦殺人事件の17歳の少年も、内藤監督と同じ1982年生まれだった。

 内藤監督も、10代の頃は小さな町で鬱屈した生活を送っていた。同世代の少年たちが起こした酒鬼薔薇事件も豊川市主婦殺害事件も、他人事とは思えなかったそうだ。もしかしたら、自分が事件を起こす側になっていたかもしれない。もしも自分が加害者側だったら、もしも自分の家族が凶悪事件に関わっていたら……。スクリーンの向こう側の出来事とは思えない、リアルな危うさが、内藤監督が撮る世界には漂っている。

 大人になることへの苛立ちから、凶行に走る『先生を流産させる会』の少女・ミヅキ(小林香織)の噛みつくような視線も忘れられないが、本作の主人公・絆星を演じた上村侑のワイルドな目つきもインパクトがある。欺瞞や偽善を許さない鋭い眼差しを持つ絆星だが、感情を制御できずに悩む絆星をより苦しめることになるのが、母親・真理である。真理役を演じる黒岩よしはソウル五輪の日本代表の競泳選手であり、マッチョな存在感がハンパない。

 息子を愛するがゆえに、息子は無罪であると盲目的に信じ込み、罪を償う機会を奪ってしまう母・真理。未成年者が起こした犯罪には、家族が異変に気づきながらも隠蔽していたことから、取り返しのつかなくなったケースが少なくない。

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