ポストコロナの“9月入学”が引き起こすパラダイムシフト、「熊本市モデル」が示す日本社会再生への道
#教育 #新型コロナウイルス
ポストコロナの関心事のひとつとして、教育問題が取り沙汰されている。しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるという例えのとおり、教育問題への関心は卒業して社会人になったり、子供の教育が終わった途端に薄らいでしまい、当事者意識を持ちづらいというのも事実ではないだろうか。
今、政府では9月入学が検討されているが、この制度変更は新卒者採用を基本とする多くの企業にも大きな影響を与えるはずで、社会人にとっても無縁ではない。ポストコロナの教育はどうなっていき、我々にどのような影響を与えるのか。知っているようで知らない最新の教育事情について、首都圏を中心に日本各地で教員向けの研修を行うNPO団体「RTF教育ラボ」代表の村上敬一氏に話を聞いてみた。
日本社会を激変させる9月入学とは?
「突如湧いたかのような9月入学の話ですが、実は明治時代半ばまでは日本でも9月入学が主流だったのです。それが4月入学に変わったきっかけは、現在まで続く『4月−3月制』会計年度が明治19(1886)年4月に導入されたこと。高等師範学校(国立学校法人筑波大学の前身)が会計年度の変更を受けて4月入学に移行したのを皮切りとして、多くの学校がこれに続き、大正時代には4月入学が定着しました。
現在は、学校教育法施行規則で幼稚園から高校までの学年は4月1日から3月31日と定められています。大学には秋入学があるのに、高校まではたとえ私立であっても4月入学しかないのは、この規定があるからです。ですので、9月入学を導入すること自体は同規則を改正すれば済む話ですが、実際には4月入学を想定して作られた子ども・子育て支援法や国民年金法、司法試験法など30以上の関連法令の改正が必要となるため、社会に大きな影響を与えることになります」(村上敬一氏)
明治時代のまま9月入学が続いていたら、人生の出発や門出を祝う花のイメージも桜ではなくコスモスになっていたのかもしれない。一方で、日本以外で4月入学を採用する国はほぼなく、欧米や中国など主要国はいずれも9月入学を採用している。教育研究者で組織する日本教育学会は5月22日、「拙速な9月入学論では、勉強の遅れを取り戻し、学力格差拡大を抑止する効果は期待できない」とする提言を安倍晋三首相と萩生田光一文科相に提出したが、教育現場での意見はどうなのだろうか。
「政府の前向きな検討状況や全国知事会が今年4月に9月入学を求める意見書を公表した状況から、9月入学導入は政策的な流れになったといえるでしょう。一方で、教育委員会や学校現場では、賛成意見はほぼみられません。ただし、9月入学が将来的に必要という意見は理解されているので、反対が“多い”わけでもないのです。
学校再開時の課題解決やコロナ第2波への対応を固めることを優先しなければならないので、そのような中で学校制度の大改革を同時に検討すべきではないという考えです。いずれにしても、9月入学が導入されるのは、早くとも2021年以降になるでしょう」(同)
では、9月入学というグローバルスタンダードに合わせることによって、どんなメリットが期待されるのだろうか。
「導入のメリットとしては、海外留学や帰国・編入が容易になること、入試の時期がインフルエンザや大雪を回避すること、春休みに比べて長い夏休みの間に新年度の準備ができることが挙げられます。他方のデメリットとしては、卒業時期と従来の就職時期がずれるため国内企業に就職しづらくなることが挙げられます。しかし、この問題はどのような形で9月入学に移行するのかで大きく変わってくると思います」(同)
現在、文部科学省が9月入学導入を前提に検討している移行案は、来年4月に入学予定の新入生を9月に入学させる一斉実施案と、21年度から25年度まで1学年を13カ月とする段階的実施案の大きく2つ。また、新小学1年生の4月から8月までを「0年生」とする案も出ている。
「一斉実施案は一気に移行できますが、21年度入学生は1学年が17カ月となるため学校や児童に負担が増えるのはもちろんのこと、将来の受験や就職活動で競争相手が増えるというデメリットがあります。段階的実施案は徐々に移行することで負担を平準化できますが、毎年1学年の範囲が変わるため、複雑な制度になります。どちらの案を選ぶにしても、移行に際しての負担が生じることは確かです」(同)
小池百合子東京都知事と吉村洋文大阪府知事が4月30日にYouTube番組で対談し、「9月入学制度の導入など、パラダイムシフトとして、大胆に社会全体のシステムを転換するとき」と発表したように、9月入学導入は、ポストコロナの日本社会を再生するためのトリガーとしても期待されている状況だといえる。
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