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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】Vol.584

死刑囚たちの告白『アイ・アム・ア・キラー』 Netflix充実の犯罪ドキュメンタリーシリーズ

裏庭に埋められた父親の死体

 第2シリーズの第4話「呪縛」も、女性の殺人犯を主人公にしたサスペンスフルな内容となっている。16歳で結婚したリンダは、長年にわたる夫のDVに苦しんでいた。夫の暴力から逃げるために大学に入学したが、夫はこれに反対。激怒した夫が銃を持ち出したことから、揉み合いとなり、暴発した銃によって夫は即死。リンダは正当防衛を主張。しかし、リンダの娘ロクサーヌが登場し、物語は大どんでん返しとなる。

 現在は西アフリカのガーナで暮らすロクサーヌは、父親が毎晩のようにベルトで母リンダや自分をぶったことを証言するが、その先はリンダとは異なる。リンダはロクサーヌをかばって殴られたと言うが、ロクサーヌは「自分が殴られ始めると、母は別の部屋へ姿を消した」と話す。さらに父親を殺したリンダは、その死体を裏庭に埋めるのを幼いロクサーヌたちに手伝わせたという。そのことがトラウマとなり、ロクサーヌは米国を離れて暮らすようになった。取材クルーは再びリンダのもとを訪ね、ロクサーヌの声を聞かせる。娘の証言を否定するリンダ。まるで黒澤明監督の『羅生門』(50)の世界だ。証言者によって事実が大きく異なる。真相は闇の中である。

 日本では死刑確定囚との面会は、親族と弁護士だけに限られており、米国のようにカメラを持ち込んでの取材は不可能となっている。この番組のことを、殺人事件を見せ物にしていると批判することは簡単だが、死刑囚たちの肉声、加害者側の家族や被害者側の遺族の葛藤に触れることができる貴重な映像集であることには間違いないだろう。殺人犯たちの素顔をカメラに映し続けるディレクターの目線は感情に流されず、一貫してクールである。

 容疑者だけでなく、命を狙われた被害者女性も問題多き人物である『タイガーキング』は、園子温監督の実話系犯罪映画『冷たい熱帯魚』(11)とNetflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』(19)を掛け算にしたようなアクの強い面白さがある。一方、客観的な視線で殺人事件を掘り起こす『アイ・アム・ア・キラー』は、白石和彌監督のブレイク作『凶悪』(13)に近いものがある。

 人間には、普段は見ることのない社会の闇を覗いてみたいという願望がある。闇の中に潜むのは、トグロを巻く毒蛇か、それとも一条の希望の光だろうか? Netflixはそんな願望も叶えてくれる。

 

最終更新:2020/05/22 16:00
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