自分で自分にガヤを入れる、本木雅弘のひとりひな壇
#テレビ日記 #本木雅弘
矢作兼「『え、武漢出身なの?』とか、ホント言わないであげてほしいね」
ひとりの声を重ねた番組もあれば、多様な人の声を重ねた番組もある。
13日の『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)。道行く一般の人たちに番組スタッフが声をかけ、同意が得られた人の家を訪問しインタビューする番組だ。
ただ、この日は少し趣向が違った。過去の放送が振り返られるとともに、かつて密着した人たちがこのコロナ禍でどのような生活を送っているのか、追加取材が試みられていたのだ。もちろん、すべてリモートで。
船乗りとして1年の大半を船の上で過ごす父子は、感染リスクを最小限に抑えながら、トイレットペーパーや石鹸などを作るための水酸化ナトリウムを運んでいた。骨董市などに通い詰め、中古のおもちゃを大量に購入してきた高齢男性は、外出自粛が続く中、家にあふれ返るおもちゃの修理を続けていた。
サックス奏者の女性は、音楽での仕事をほぼすべて失っていた。周囲のライブハウスは日々潰れていた。
「コロナの終息よりもっと長引くから、我々ミュージシャンの絶望というか。何もない状態っていうのが、すごい長くたぶん続くから。いつかライブを夢見てる日々が続いてるって感じで。ただ、その希望をなくすわけにはいかないっていう感じ」
聴覚障害のあるギャルは、周りがマスクをしているので、何を言っているのかわからず不便なことがあると語った。他方、ベトナム人の彼氏と一緒に暮らす生活に移行していた。最初の取材で「幸せですか?」とスタッフに問われ「普通」と答えていた彼女は、再取材で次のように語り直した。
「前に『いま幸せですか?』って聞かれて、『普通』って答えたけど、いまはもう幸せ。(中略)自分の好きな人と付き合えるって奇跡だし、だからいまこの時間を、大事にしようと思ってる」
日本で暮らしていた中国・武漢出身のモデルの女性は、旧正月に帰郷した後、そのまま日本に戻れなくなっていた。渋谷駅に貼られた広告モデルに採用されるなど仕事でようやく結果が出てきた、そんなタイミングでのコロナ禍だった。予定されていた2月以降の仕事は、すべてキャンセルとなった。
「やっと日本のお仕事で輝きが見えたから、日本に戻れない日々が悔しいなって思う」
武漢出身者への差別が生じる懸念についても触れられた。VTRを見ていた矢作兼(おぎやはぎ)も語る。
「(武漢は)コロナっていうので有名になっちゃったからね。『え、武漢出身なの?』とか、ホント言わないであげてほしいね」
日々、テレビでは新型コロナウイルスによる感染者数や死亡者数がカウントされている。もちろん、科学的・統計的な見地から社会の方向性を見定めるのは必要なことなのだけれど、その数字が減ると、なんだか安心したりもする。誰かが亡くなっているのに。
数字という声が大きくなる。そのひとつの声に、私たちの命や生活が一元化される。そんな日々が過ぎている中、番組では一人ひとりの声が届けられた。社会はこういう小さな声によっても支えられ、奥行きが生まれている。そんなことに、あらためて気がついた。
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